クロザクロ

触覚

御形は、時折酷く切羽詰った様子で体温を欲しがる。
それは性的な熱ではなく、本当に、唯の人肌の温かさで。
血の様に煮えた熱さではなく、触れた皮膚、その奥の組織の温かさで。
暴れる様にがむしゃらに九蓋に抱きついてきて、そのまま背中に貼り付いて離れない事が二月に一度、そんなに頻繁ではないにしろあった。
「九蓋は汗臭い」
背中に貼り付かれて大層迷惑を被っているのにも拘らず、そんな文句を言われた日には、強引に引き剥がして無理矢理稽古に持ち込んだ。
数十分後、打ちのめされて大の字で道場に伸びている九蓋の躰、その心臓の辺りに手を置き、耳を寄せて、眼を閉じて。
それでも矢張り御形は人の体温、心音、そういったものを全身の器官で感じ取ろうとしているかの様に側に貼り付いて離れようとしなかった。

まるで動物の仔の様だ。
今日も背中に御形の鼓動を感じたまま、思い。
すぐに自分らは未だ子供なのだと思い出す。
自分に負ぶさる形で、背中を丸めて凭れ掛かる御形の呼気を感じながら。
普段意識の遠くにやられてはいるが、それは紛れもない事実で、自分らは未だ子供なのだと再度、なぞる様に思い返す。
御形は、戦う事を知っている分、本能がそのままなのかもしれない。
獣の、それに近いのかもしれない。
九蓋には、御形が体温に――人肌の温もりに安心している様に思えた。
「……あのな、九蓋、」
唐突に、背中から声が振った。
「手の先とか、躰の末端から、腐っていく、様な、感覚があるんだ」
壊死、していく様な。ぼろぼろと肉片となって落ちていく実感。
全てが腐る前に断ち切ってしまえる所で断ち切りたいのだけれど、そうしたらもう残る所なんてないのではないだろうかと。
――それが、怖いのだと。小さく消え入りそうな声で。
「――お前の温度を感じられる限りは、多分未だ大丈夫なんだと思えるんだ」
笑いたければ笑っていいよ、弱さを混じえた底の浅い笑いを含んだ声を背中に聞き。
服の裾がぐっと、握られたのを感じた。
「――笑えよ、九蓋」
その笑い声、ちゃんと耳に植えつけておいてやるから。
いつもの御形らしくない、弱音にも似た言葉がどうしてだか悔しく、腹立たしく、九蓋は上半身を反転させ、そのまま背中に貼り付いていた御形の躰を乱暴に抱き込んだ。
その耳を、丁度己の心臓の真上辺りに押し付け。
いきなりの出来事に眼を瞬かせた御形に、九蓋は「お前は、莫迦だ」、そうとだけ言い、何も続けずに。
御形は暫し眼を大きくしたままだったが、やがて瞼を閉じた。
「……九蓋の心臓の音が聞こえる」
腕の中から、微かな笑い声が漏れた。


九御:養成所時代:獣のそれ、に近いのかもしれない