白磁の肌、柔く
名取がお前の手は小さかったんだな、ポツリ呟いて……主様、問う前に主は続けた。あの頃の私にとってお前の掌は大きかった。名取の頭に落ちた葉を取ろうと伸ばした手は、葉を取る事には成功したがそのまま男の手に掴まれた。手首を一周できてしまう大きなその手は大人の男のもので、それは名取のものだった。
長い指、硬い骨、形の良い爪――綺麗な手。そんな凡庸な言葉を頭に浮かべては、そういう指はきっと誰に対しても優しい指なのだと柊は思う。自分の割れた爪脆い骨裂けた指に包帯を巻いてくれた子どもは、きっと今も誰にでも優しい。そこに今も妖が含まれるのかは知らないけれど。
包帯を除いた手には未だに傷が残っていて、爪も割れたままで、主がくれた薬で治りつつあるとはいえ矢張り綺麗と言う言葉とは程遠い。この指は手は労働でも何でもなく唯束縛から逃れたいが為に抗い続けそうして諦めた結果の、虚しい過去を物語るものだった。
主様、お手を。お放し下さいと言いかけた言葉は一層強く握られた手首、主の柔らかな唇を引っ掻いた己の指先の粗相に途切れた。温く柔く、唇が触れて、離れ、そして頬に添えられて。
――あの頃の私にとって、お前の手は女のそれではなくて、妖のそれでもなくて、傷付いている者の手だったよ。
それは名取自身が傷付いている者だったからだ。同じだったからだ。だからそんな風に思ったのだ。今だって、同じ世界を見るのに解り合えない事を矢張り悲しんでしまう自分の弱さに気付かされて、それでだろう。
そう言いたくても主の頬はひんやり冷えていて、己の指先だけは熱くて、掴まれた手首に移るのは主の熱で。あぁ、私まで。
私まで悲しくなってしまう。
名取と柊:「この手に残る熱」