夏目友人帳

緑青一声雨に落つ

夜、文机に置いた手元の灯りにぽたり光ったそれが雨だと知れたので、柊その面を取ればどうだ。伸ばした手は白い縁に触れる前に遮られた。いいえ主様、これはそのままで。槍のように地面に突き刺さる勢いの雨の音よりもずっと小さな音であるにも拘らずはっきりと耳に届いた言葉に、名取はいつだって隔絶を見る。
拒絶と言い換えてもいいのかもしれないが、実際柊は名取を拒む事などできない立場だったから、矢張りこれは隔絶。断絶と言うにはまだ繋がりがあると思いたいこの心は恐らく浅ましさに満ちている。と客観視する己の心は、やけに達観している。ひととあやかしなのだから。全くそうだ、自分は人でこれは妖。その間を繋ぐものに上手い名を付ける事を名取は面倒くさがったので未だにそれは名の付けられない狭間として残っていたが、そこに満ちているものは無ではない。無い、という現象が在るのではなく、無ではない何かがそこに在って満ちていた。
だからこそ言えてしまう一言もあり、柊、お前は誰かと寝る時もそのままなのか。揶揄に返されたのは沈黙で、ここで妖にそんな行為は必要ないしする事もないのだくらいの言葉が正直欲しかった。だってそうでなければ浅ましさは助長されてやましさに転じて期待してしまうだろう。
この雨の音に紛れて聞こえなかったのだ、などと言う事などできやしないのに。


名取+柊:期待してその先を望んでそうして

(20080801)