結界師

青鈍

まさかこんなに翡葉が子供好きだったとは思わなかったよ。
一歩前を歩く正守の唐突な言葉に、翡葉は一拍、空白の後に眉を僅かに顰めた。
「そんな事を言われたのは生まれて初めてですよ」
何を思ってそんな事を言うんですか、頭領。そう続けようともしたが、正守の顔に浮かんだ笑みを見て止める。
――裏を、感じさせる笑み。
「俺さ、翡葉は自分にも他人にも同じ厳しさを持つ人間だと思ってたから」
意外にも、ねぇ。くくっと咽喉の奥で笑う、その心が云わんとする所を悟る。
自然、発した声音は低くなった。
「……俺が、志々尾を甘やかしている、と?」
「それは違うよ、翡葉」
即座に否定され。
「そういう、事じゃなくて」
既に胸の内にあるだろう言葉を出し惜しみする様な、勿体ぶった態度。
翡葉は溜息一つ、「……楽しんでいるでしょう」
「いやぁ、そういう訳でもないんだけどね」
そんな風に見える? これ見よがしに聞いてみせた正守に対し、翡葉は片眉を上げて肯定の意を示した。
酷いな、翡葉は。笑いながら正守は視線を稽古場――恐らく志々尾がいるであろうそこ――に向けた。
「先刻俺があの子の事、口にした時」
「お前、自分がどんな顔してたのか解ってないだろう?」
怪訝な顔をした翡葉を振り返り。
「凄く」
 ――限、最近はどう? 未だ力に引き摺られちゃってる?
 ――そうですね
 ――時折暴走しかけますが、あれだけの力を持っている事を考慮すれば可愛いもんです
 ――力の抑え方さえ覚えたら

「可愛い顔、してたぞ」

 ――まだまだ、伸びるでしょう

「――少々、妬けてね」

俺の前だといつも険しい顔ばかりしているのに。
探るでもなく、ただ見つめられ、言葉に窮し。
「……そんな事は、ありません」
視線を逸らしたくとも逸らせない、正守の眼に捉えられたままに漏れた言葉は、空回った。
「――ホラ、また険しい顔してる」
ばん、背中を叩かれ、眼を瞬かせた。
「もっと笑顔で行こうよ、翡葉」
明るく、明るく。
ばんばん連続で叩かれ、頭領!? 翡葉は戸惑いを含んだ声で。
「――険しい顔するのは、仕事の時だけでいいよ」
遮り、正守は「な、」 同意を求めるかの様に翡葉の肩を抱き、その耳元に口を寄せ。
「ついでに言うなら、不意打ちであんまり可愛い顔はするもんじゃないよ」
襲いたくなるから。
あっさりとした口調と裏腹なその内容に、翡葉は眼を大きくし。
「な、にを……!!!」
「あ、耳真っ赤だ」
可愛いなぁ。正守の暢気な一言に、「頭領!!!!」 滅多に聞く事のない翡葉の大声が響いた。


正翡葉+限:本人が意識すらしていないだろう微かな変化に