クロザクロ

「九蓋は子供、作るべきだね」
そんな不毛な言葉から会話は始まった。
本来の稽古場からは離れた、川原での稽古。何時もの如く、御形に一打も当てる事ができずに満身創痍になるだけで終わった九蓋は、ぐっとタオルを絞りながら背後の御形に視線だけを寄越した。
「……お前、馬鹿だろう」
九蓋が一言、そう言えば、御形は「相変わらず固いねー、考えが」、呆れた様に肩を竦めて見せた。こう言うだろう、心を読むまでもない予測通りの返答に、苦笑いも起きない。
「俺達蒐集者が子供なんか作ってみろ、俺達が死んだ時にどうするんだ」
そもそも俺達が未だ未熟者なんだからな、子供だの何だのの話なんかしても意味がない。
九蓋の言葉に、御形はやれやれ、再度肩を竦めた。
「九蓋、お前は弱い。俺に一度たりとも勝てた例がないじゃないか」
歯に衣着せない発言に、九蓋は躰ごと振り返る。全身に残る青い痕と、出来たばかりの赤い痕は、己よりも小さい躰の眼前の少年につけられたもので。
「――それとこれとは何の関係もない」
噛み付く様に言い返すも、「関係あるさ」 御形のあっさりとした、けれども有無を言わせない静かな言葉に詰まった。
「――飢えた狼よりも、飢えた子供を持つ母犬の方が強いんだ」
お前は人を守る、なんて威勢の良い事ばかり言うけれど。
「自分が死んでも、なんて思ってる奴は、結局何も守れずに弱いままに死ぬよ」
自分と同年代の少年の口から発された、不釣り合いなほどの達観した言葉に、九蓋はどう返せばいいのか答えに窮した。いつの間にか、普段の浮ついた雰囲気を一切振り払い、ただ静謐だけを身に纏っていた御形に何も言えず。沈黙に陥りそうになった瞬間、「九蓋、」 声変わりの済んでいない声で。
「九蓋、俺は、」
お前に俺より先に死んで欲しくないんだよ。だから、
「子供でも何でも作って、『死ねない理由』を作れ。作っちまえよ」
そうして、弱くても弱いなりに生き残れ。
人を真っ直ぐに見つめる事を厭う普段とは異なり、自分を凝視する御形の眼には何の惑いもなく、それが真実、嘘偽りない本音だと知れた。異形の眼は、今の自分の心を読んでいるのだろうかと――唾を飲み込んだ咽喉の奥が、それでも渇いている様に思えた。
「――お前は、どうなんだ」
お前に、「死ねない理由」はあるのか。
短く、それだけを問えば、御形は口の端を僅かに上げただけで何も答えなかった。


九御:養成所時代:飢えた狼よりも飢えた児を持つ母犬の方が