黒子のバスケ

コボリさんちの愉快な勉強会

コボリさんに飼われているゴールデンレトリバーの涼太と黒猫の幸男さんの日々ほのぼののハートフルストーリー。
外見もがっつり動物仕様でお送りします。
人間のキセもカサマツくんもいます。キセキも揃って動物化。

夏の無料配布『イロモノキワモノ2』より


『ねえねえ、リョウタにはハツジョーキあるんスか?』

いきなりふいと振り向いたキセが何だか物凄く軽い、緑間っちいわくの「馬鹿の声」で眼を輝かせオレにそんなことを聞いてきた途端。ぼごん!とキセの頭がもげた。

『お前は! そういう馬鹿なこと言ってねぇできちんと勉強しろ!  赤点取ったら容赦しねぇからな!』

ぷんぷんと怒気を孕んだこの声はカサマツくんだ。相変わらずの反射神経、流石カサマツくん。怒るときちょっと声が高くなるのが可愛い。多分、普段は頑張って声低くしてるのかなぁと思う。幸男さんが言うには、カサマツくんは顔付きが幼いから、威厳を持たせたくてあんな風に声作るんじゃないかとのこと。成る程納得、カサマツくんはコボリさんや他の人に比べてちっちゃい。いや、それでもお母さんよりはずっと大きいのだけど、周りの人が大きいのだ。

『ちょ、センパイ丸めた教科書で殴られるとかオレ初体験なんスけど!』

キセの泣き声とは裏腹に、カサマツくんの声は至って平静だ。おぉおぉ、そりゃ良かった。お前の初体験もらえて嬉しいぜ。あああそう言われちゃうとオレも何か嬉しくなっちゃうけど、そういうことじゃないんで! っていうかちょっとセンパイ本当に嬉しそう? ホント可愛いオレの天使!
キャーなんてはしゃいで片手で顔を隠しながらカサマツくんをパシャパシャと写真に撮る姿は、雄の威厳の欠片もない。何だろうか、この軽そうな雰囲気は。ところで天使というのは、羽を持った人じゃないんだろうか。カサマツくんの背中には羽が生えているんだろうか。今度一緒に水浴びしたときに確認してみよう。
オレはそんなことを思いながら、ここにいる理由をすっかり忘れているらしいキセに話しかける。

「キセ、キセ。お前勉強しなくていいのか?」

鼻先で脇腹を突付いてやる。つんつんぴすぴす。突付いた鼻先で、手元の紙とペンを示すと、うっとドクダミ噛んだときみたいな顔になった。
確か今日は、キセとハヤカワくんが「シケン」で悪い点を取らないためにとかで、夏に集まったコボリさんの仲間が再結集しているのだ。その時にはいなかった、ナカムラくんという人とは今日が初対面。幸男さんも初めてだったらしく、二人揃ってご挨拶をした。ちょこんとナカムラくんに向かって座った俺の胸元に、幸男さんが収まるような形で、ぺこり。お辞儀をすると、ナカムラくんも丁寧に頭を下げて挨拶してくれた。
その時、何か目元に四角い何かを掛けていて邪魔じゃないのかなぁと不思議に思って見つめていたら、あれ、リョウタくんオレの眼鏡に興味があるんですかね。あぁそうかも、オレも家族も視力良いし、メガネ初めて見るのかもな。そんなやりとりと共に、オレに教えてくれた。
あれは眼鏡というものらしい。眼が悪い人が掛けるもので、それってつまりオレの眼のようなものなんだそうだ。勉強を頑張った人とか、本を読むのが好きな人がかけることが多いんだという。いや、それほどでも……と言うナカムラくんはちょっと恥ずかしそうだったけど、確かに、ナカムラくんはとても勉強が好きそうだ。オレはあんまり勉強が得意ではないから、それだけでナカムラくんを尊敬の眼差しで見てしまう。うん、とても賢そうな顔付きだった。キセとは違う。

『――それにしても、ユキオくんもですけど、噂以上に賢い子ですね、リョウタくん。人間の言葉解ってるんじゃないかって思いますよ。キセの方が残念に思えますね、これは』
『大丈夫だ、それはオレ達全員の総意だ』
『ちょっと! オレが名前の由来なんスけど!? 本家本元のなんスけど!?』

えぐえぐと泣き真似をしつつカサマツくんに抱き着くキセの抜け目のなさに毎回オレは吃驚するし感心もする。勿論直後に脇腹に鋭い一撃を受けて悶絶していた。これがハイリスク・ハイリターンなのだね、緑間っち。

『ほら、リョウタも言ってるだろ。真面目に勉強しろ』

カサマツくんがキセの手元を覗き込んで、全然進んでねぇじゃねぇかとキセの頭を叩く。今度は素手だ。カサマツくんは何だかんだでキセのことを大事に思っているようだから、これは配慮という奴だろう。キセに雄のにおいをつけられても、カサマツくんも嫌がっていないし。他に誰もいないとき、カサマツくんに抱き着いてるキセの雄のにおいは尋常じゃない。オレでも解る、これは人がするマーキングという奴なのだろう。人間は、オレ達と違って一年中発情している動物だというのも、キセを見るとこれまた納得だった。あれ、でもこれ裏を返せばカサマツくんも同じように一年中発情してるってことになってしまうのか。いやでもカサマツくんなのに。発情するカサマツくん……駄目だ、オレには想像できない。――そうだ、そういえば。

「何でオレの発情期なんて気になったんだろう、キセ」
『ってかお前、何リョウタの……とか言い出してんだよ。リョウタにだってあんだろーし。お前、そういうことはコボリとハヤカワの前では言うなよ」

まさかのタイミングでカサマツくんが聞いてくれた。しかしカサマツくん、発情期という言葉がもしかしなくても言えないらしい。自分が発情しているみたいなのに。初心な人のようなのだ。

『モリヤマ先輩とナカムラ先輩の前でならいいんスか? ……いや、何かリョウタっていつもユキちゃんとひっついてるし、これは種を超えた友情なのか愛情なのかどっちかなーと……見ててスゲーほのぼのする子達じゃないスか。発情期とか考えられないなーって』
「ちょ、幸男さん相手に発情とか! してるわけないでしょ! オレの兄貴であり師匠なんスよ! 友情っていうほど同じ立場にあるって言うかむしろ弟みたいな……子分みたいな……」

あ、言ってて寂しくなってきた。でも本当、幸男さんに発情したりなんかしていない。だってキセのあれを見てるし、嗅いでる。発情してるってのがどういうことなのかオレにだって本能で解る。――オレは、幸男さんには発情はしていない。笑ったり喜んだりしてくれたら嬉しいけれど、それを独り占めしたいとは思わない。キセがオレに教えてくれたこと。
これはオレのものだって他の雄を威嚇すること、お前はオレのものだってにおいをまぶして離れるなって束縛すること。
――時々、コボリさんに甘えるみたいにオレにも甘えて欲しいなって思うときがあるけれど。

「お前は――そういう色ボケたこと考える暇あったら公式の一つでも覚えやがれ!!」

カサマツくんの至極最もな一言でオレの色めいた思考も吹き飛んだ。


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