blind alley
この話はブログに掲載している軍人パラレル(『ブラインド・アレイ』)の小話となります。
黄瀬と笠松さんが敵対関係にあり、かつ黄瀬が笠松さんを甚振っていたり弄っていたり嬲っていたりする関係が前提ですので、苦手な方はぽいっとしてください。
夏の無料配布『イロモノキワモノ2』より
敵対関係×殺伐×黄笠
黄瀬が初めて実戦の場に赴いたのは数えで十五の時だった。丁度元服の年ということもあり、他の五人と共にいきなり最前線に送り込まれた。領土拡大を狙って隣国に仕掛けた戦争の只中、当時の戦局がテイコウ優位に動いていたとはいえ、今にして思えばとんだ無茶をやらかされたなと思う。黄瀬達は模擬戦では歴戦の部隊にも互角の勝負を繰り広げてはいたが、それは命の心配をしなくてもいい、あくまで仔獅子が親獅子にじゃれつくような戯れでしかなかった。獅子搏兎を掲げるテイコウ軍部いえど、内部にまで四六時中それを強いればかえって余裕のなさに繋がる。適度な息抜きとしての模擬戦――経験豊富な軍人達と、次世代の軍の担い手となるだろう若い力との対面式でもあり交流の場でもあったそれ――によって緊張と怠慢は常にバランスを量ることが目指され、それは成功していたと言えるだろう。
平和を謳歌する日々が突然瓦解した隣国の国民の抵抗は、テイコウの予想に反して激しかった。これは後々、長きに渡って王を擁いていた国に特有の、臣民としての心が、己が国を蹂躙されることは即ち己が王を蹂躙されることと同義であると捉え、耐えられなかったということだったのではないかと分析された。この死を恐れない抵抗は予想より戦局を長引かせ、戦禍も拡大させた。投降することを恥とした彼の国の各地で、血で血を洗うことが常だった。そこに、黄瀬達は送り込まれたのだ。
初陣としてはあまりに血腥い戦場に駆り出されたにも関わらず、黄瀬も他の友人達も各々敵将の首を上げ、その戦功を褒め称えられた。黄瀬達の出陣を指示したのは白金将軍だった。直後に持病が悪化し引退してしまったが、その炯眼は流石だったと言えるだろう。当時白金将軍に引き立てられた者達は、現在軍の中枢にいるか、もしくは軍を去ったかのどちらかでしかない。
その年から三年かけて、テイコウは順調に領土を拡大した。今まで友好関係を築いていた周辺国との条約に穴を見つけ、それを足掛りにして圧倒的な軍事力をもってして一気呵成に従属国化ないしは植民地化を図る。中には保護国化した国もあり、そうやって取り込んだ国々の間の待遇に差をつけることで各国の連帯を阻む。勝者こそを絶対とするテイコウの理念からすれば、敗者の間にも優劣をつけることは実際愚かしいことでしかなかった。しかしながら統治においてその愚策は非常に有効だった。テイコウはその徹底した帝国主義により、史上稀に見る巨大軍事国家となったのだった。
テイコウが次に目をつけたのは、自国と拮抗する力を有していた遠方国の領土と資源だった。テイコウは海港を一箇所しか持たず、それ故に海に面した周辺国をいの一番に侵略した。だが、元々は友好関係を築いていたとはいえ当時からテイコウが優位に立ち、経済も技術も発展していたことも関係し、手に入れた海軍の軍事力も設備も、そして貿易システムも満足のいくものではなかった。それを基にしてテイコウ独自に発展させることも国の中枢部では提案されたというが、現在もっとも発言力を持つ軍部によって全ては決定された。すなわち、軍事力をもってして全てを奪うことになり、白羽の矢の立った国が現在随一の海軍力を誇る、群島国家であるカイジョウだった。
そこに先ず派遣されたのは青峰のいる部隊だった。青峰はその自由奔放な奇策を得意とし、海上での戦闘経験の少ないテイコウ軍の中でも臨機応変に対応ができるだろうと期待されての抜擢だったと聞く。実際、戦争が始まって初期の快進撃は矢張り青峰だと賞賛された。群島国家であるため、大陸に近い島から進軍が開始されたが、結果から言えば青峰はカイジョウ本島にまでは到達できなかった。その直前の戦局でしてやられたのだ。カイジョウ海軍の小隊長に隊を潰され、青峰は久々の好敵手に怒りを覚えるどころか血が沸いたらしい、喜び勇んで再戦に臨もうとしたという。しかし、次にカイジョウに派遣されたのは黄瀬だった。青峰はこれぞという敵と出会うと延々と戦い続けたがる癖がある。これを未然に防ごうと、軍中枢部が先手を打ったわけだった。
青峰に代わり自分の部隊を率いてカイジョウに向かった黄瀬は、そうして今カイジョウ攻略の英雄として名を馳せている。青峰になしえなかった戦果を上げたこと自体にも気分は高揚したが、それ以上に青峰に一杯食わせた小隊長――笠松を手中に入れられたことが何よりの戦果だった。
黄瀬とてその戦績を見れば、カイジョウ軍本体には逃げられているのだ。まさか小隊長が直々に囮になるとは思わなかった。そんなことをするのは蛇が自らの頭を失うのと同等であり、残された胴体部分だけで何ができるものか。そう考えていた黄瀬にとって、カイジョウ軍が――笠松が取った策は全く想定外だった。テイコウとカイジョウの軍は組織の在り方が根本的に異なり、成る程確かに赤司が軍ごと取り込みたいと思う気持ちも解らないではなかった。
その後国の首脳部はテイコウに降る意思を表明したものの、軍部が現在独自に野戦活動を展開している。完全とは言えないまでも、国としてのカイジョウは既に機能していないという点で、黄瀬にはカイジョウ攻略の賞賛が与えられた。その賞賛は流しながらも、一角の功を挙げた褒美として笠松を捕虜として専属に取り調べる権利を――自分専用の奴隷にする権利を黄瀬は貰い受けたのだ。
笠松幸男は黄瀬にとって未知の生き物だった。それというのも、黄瀬の周囲にいる軍人というのは大抵が軍人らしくない人間ばかりだったからだ。外見からして派手で、軍人によく見られる質素さとは程遠い。青峰は街の喧嘩早いゴロツキに紛れても遜色ない柄の悪さだったし、緑間の神経質で几帳面な性格と妥協を許さない考え方は、軍服よりも白衣の仕事が似合うだろう。紫原はその巨体と性格、甘いものを嗜好する様も相俟って森の熊のような何処かとぼけたところがあったし、赤司は軍部でなくても政でも経済でも何処でも活躍できたはずだ。黒子に関しては大人しそうな外見に反して意外と勝気で大胆な性格をしており、その点今の諜報という仕事は天職とも言えるだろうが、人の命を奪うことを極端に厭う様は、軍の中では浮いていた。
このような中で、改めて笠松幸男という男を考える。先ず外見だ。実直そうな顔つきをしていると言えばいいが、要は己の容貌に一切興味を持ってこなかった人間だったのだろう。歳が自身より二つも上だというのを知ったときには思わず笑ってしまった。幼い顔立ちをしているものだから、同じか一つ二つ下なのではと思っていたのだ。
次に内面。これに関しては黄瀬の前に連行されてきたとき、わざと開けておいた首周りを狙って噛み付こうとしてきたこととに始まり、今し方までの色気の欠片もない交接にもよく表れていた。黄瀬に躰をいいように暴かれ、弄ばれながら、僅かでも隙を見せようものなら笠松は躊躇いのない一撃を加えてくる。笠松というのはどのような苦境にあってもその芯の部分が決してぶれず、また折れることのない男だった。
お陰で未だ彼との交接では後背位が多い。気紛れに正常位や対面座位で犯すこともあるが、口を自由にしておくと即座に噛み付かれ、手を自由にしておくと関節を極められ、急所を突かれそうになる。なかなかの緊張感を伴った交わりは、今までになく興奮に満ちた時間だったが、毎回それを堪能するには時間が足りなかった。――だから交わり自体が数日振りの今日は存分に楽しませてもらった。わざわざ赤司に融通を利かせてもらって一日自由にしてもらったのだ。笠松との時間に丸一日費やせるなんて、もしかしたら彼を貰い受けてから初めてかもしれなかった。
久々だった今日は右腕の噛み傷と、鎖骨への突き、左頬の擦過傷で済んだから軽傷といえるだろうか。噛まれたときに肉を持っていかれなくて良かった。即座にその首に手刀を入れたから良かったものの、笠松の首には線上の痣ができてしまった。しかし見ようによっては首輪のようで、今度は笠松に首輪でも嵌めて犬のように扱ってやろうと思う。
最初の内は女のように扱われ弄ばれることに屈辱を感じているようだったが、次第に諦めたのか抵抗することもなくなった。これも、余計な傷を負わないように、体力を使わないようにという強かな策略の一つに過ぎない。黄瀬とて、元来相手を肉体的に虐げることに悦びを見出すような人間ではない。結果的に笠松を殴り縛ってはいるもののそれが目的でない。その証左に、今までの女を殴るなどしたことはないのだ。そもそも自分から足を開き、跨って腰を振ってきたので、虐げる余地も何もなかった。だからといってこれから彼女達をそう扱うのも億劫だった。
――ねぇ笠松さん、アンタだけは違うんだ。何でだろうね。
自らがつけたまだ赤い首輪を指先でなぞりながら、その幼い寝顔に黄瀬は薄く微笑んだ。