コボリとカサマツと
昼食の準備をする、というコボリの後に抱き抱えられて台所。
三和土にひらり降りてとてとて足に絡んで離れてを繰り返す。
と、危ないぞユキ、コボリにひょいと抱き上げられてしまった。
『ちょっとここで待っててな』
すとんと三和土に設けられた椅子に降ろされる。
「……邪魔なんか、しないのに」
『火も使うし、危ないから、な?』
「……解った」
いちいちそんな気を遣ってくれなくてもいいのにと思う。
でも、コボリのそういう気遣いがとても嬉しくて、くるり椅子の上に丸まって待機。
そんなオレの様子を見ていたのか、後から来たカサマツが『チビは利口だなー』と頭を撫でてくれる。
……嬉しいけれど、でもオレそんなにチビでもなくなったんだけど。
カサマツに拾われたときのオレは確かにチビだったし、何とも言えない。ぱちぱち眼を瞬かせる。
『しっかし、相変わらず古き良き日本家屋だよな』
オレのちょっとした不満を知らず、物珍しげにカサマツが辺りを見回す。
オレにはよく解らないけど、コボリの家の造りは珍しいらしい。
前に皆で来たときにわいわい騒ぎながらあちこち見て回っていた。
ハヤカワが言うには『まるで爺ちゃんちみたい』だそうだ。
でもそんなハヤカワの家も同じくらい古いらしい。
オレは行ったことがないから知らない。
『まぁ、炊事場が土間ってのはな。いちいち靴履かないといけないし』
苦笑するコボリは、戸棚からそうめんの袋をがさがさと大量に取り出した。
『どんくらい食う?』
『あー、カケル二は欲しいか』
『三じゃなくても平気か』
『かき揚げあるだろ』
『そうだな……ま、全体で二.五くらいにしとくか』
喋りながらも手はさくさく動いている。
そうめんだから茹でるだけ、とはいえ、二人は添える野菜を切ったり皿を出したりと無駄のない動き。
息が合ってる、っていうのはこういうことを言うんだろう。
とんとん包丁の音やぐつぐつ煮立つ音が心地良くて、風通りもいい。北向きだから朝なんかは冷え込んでしまうけど、今くらいの時には過ごしやすかった。でも一番は縁側。ひなたぼっこするのが好きで。あ、でも。少し湯気で蒸してきたかも。
うとうとしているとコボリに名前を呼ばれた。
『ユキ』
何だろう、思って身を起こしたとき、何だよ、という声。
『あ、ごめん。お前じゃない。ユキ、ユキオの方』
『あぁ? あ、そうな。チビな。あー、地味に忘れてたわ。ってかオレもユキオだぞ、おい』
『そうか、悪い悪い』
目配せしあって笑った二人に、オレもいるのに。そう思ってコボリ、カサマツと名を呼んだ。
「何だったの、コボリ?」
『あ、ユキ……オ、お前眠いんなら縁側で寝た方がいいぞ? 影になってるとこで寝てれば丁度良いし』
ちょっと蒸し暑いだろ、ここ。コボリの言葉に頷く。うん、確かに。
『あ、縁側って何だ、チビの指定席だったりしたのか?』
ちょっと驚いたような声のカサマツ。そうだよ、と答えると、しまった、みたいな顔をした。
『どうした、ユキ』
『あー、あの馬鹿が今頃占拠してる』
『キセが?』
『そう。インハイ終わってこっち、どうも寝不足みたいでよ』
キセ、という言葉に知らず知らずしかめっつら。
昨日初めて出会った男はどうにも生意気で癪に障った。
何よりコボリを困らせていた。万死に値する。
同じ色の髪でも、涼太の方がずっと利口だ。
アイツはまだ子どもだから馬鹿な部分も多いけど、何より素直だ。
『――うーん、まぁ、そこは仲良く共有してくれるんじゃないか、場所を』
『チビの奴、思いっきりキセに敵愾心剥き出しにしてたぞ……』
「だってコボリを困らせてたんだぞ!」
自分の行為を謝る気なんてさらさらない。ピンと四肢を突っぱねて声を荒げるオレに、落ち着けって、ユキオ。コボリが苦笑した。
『あいつは悪い奴じゃないよ。――うん、そうだな。やっぱりちょっと縁側に行ってみな? 昼できるまでだけど、な?』
「………………コボリがそう言うなら、行ってみる、けど」
でもアイツと仲良くなんかなれそうにない。
でも、ここでゴネてコボリを困らせるのは絶対に嫌だ。
渋々頷いて立ち上がったオレを見て、コボリが『ユキオは何か中学くらいのユキを彷彿させるなー』とにこにこしていた。
『ちょっと素直になりきれないところとか、やんちゃなところとか。そう思わないか?』
『……いや、オレに言われても』
上がりかまちで振り返ると、カサマツが怒っているのか困っているのかそれとも恥ずかしいのか、凄く複雑な顔をしていた。
でもコボリが悪意なく言っているのはオレにもきっとカサマツにも解っていて、だからカサマツはキセ相手みたいに蹴り倒すことはしなくて。
というか、そんなことしたら幾らカサマツでも容赦しないけど。
『――でもまぁ、ちゃんとキセと仲直りしたんだろ?』
その言葉に、カサマツの顔がのぼせたみたいに真っ赤になったのを見て、コボリが言うようにオレとカサマツが似ているっていうなら。
――オレもあんなに解りやすいのかな、なんて思って、何だか凄く複雑な気分になった。