黒子のバスケ

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黄瀬が飛び掛ってきた瞬間に顔面突き刺す勢いで幸男が出したのは所謂ペロペロキャンディという奴だった。

「ゆ、ユキちゃんこんなの酷いぃいいい! 折角涼ちゃんがこんなドラキュラコスプレまでしてるのにその仕打ち酷いぃいいいいい!!」
「何がコスプレだ!! いい年した大人が恥ずかしげもなくそんなんするな!」
「遊び心を忘れた大人ほど寂しいものはないんだよー!!?」

えぐえぐと泣き真似をする黄瀬がうざいったらありはしない。
包装をびりびり破るとその口にキャンディを突っ込んだ。

「ふがっ! な、何すんのユキちゃん!」
「黙ってそれ舐めとけ。オレはこれから風呂だ、風呂」
「オレも一緒に……」
「来たら全裸にコートで外に放り出す」
「変質者扱い!!?」
「そんな恰好してる時点で既に変質者だ」

えんえんと泣く黄瀬を尻目に、ふんと鼻を鳴らし、タオル一枚を肩に引っ掛けて部屋を出て、こそり細く息を吐いた。

「……あの恰好は反則だろー……」

Tシャツにジーンズというぞんざいな恰好でさえ、黄瀬が着れば恰好いいの言葉以外に何も出てこないのだ。
それなのに、あの黒の燕尾服はどうだ。
無駄のないラインをしているからこそ、黄瀬の躰を隠しているようで隠していない。
顔の小ささや胸板の厚さ、弛みなど一切ない引き締まった服とその内側が否が応にも想像されて、幸男は火照りそうな頬をぺちんと叩いた。
そもそもドラキュラが燕尾服を着るのか、そういうものなのか。ドラキュラと言われなければ唯の正装した男前がそこにいるだけだ。

――あぁ、でも。

鼻から口元までを覆っていた両手を外し、幸男を一度深呼吸した。

「……アイツ、牙はあるもんな……」

時折幸男の鎖骨に立てられるその牙と、そのときの黄瀬の色に満ちた眼差しと表情を思い出して、お菓子をあげたものの悪戯もされたい、なんて。
そんな耄碌したことを思った自分の頭を冷やし、思考を流すべく、幸男は風呂場へと向かった。



(お菓子をあげようがあげまいが)


Trick but Treat!


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