黒子のバスケ

捏造と偽装

黄瀬、これやるよ、と。眼の前に突き出されたもの。
「………………えっと?」
「今日、聖ヴァレンティーノが火刑に処された日だろ? で、最近の日本だと製菓会社の戦略もあって、それを模すっていうか、換喩的にこういうの食べるんだろ?」
「……………………それは毎度の?」
「モリヤマ知識だ」
「…………………………」

古今東西の性知識と性事情に詳しいと豪語していたはずだ。
豪語していたはずなのにどうして現代日本に関してはモリヤマ知識を盲目的に信じ込んで最優先してしまうんだ。

「……あの、取り敢えずっス、ね」

オレはそれを持つ手首をそっと掴んで視界の外に持っていく。

「火炙りにされちゃったというヴァレンティーノさんが、どうしてそういう風になっちゃうんスかね?」

がんがん痛み出しそうなこめかみを押さえたくなる。何とか口の端を引き攣らせて作った笑みは、今のお前不細工だな。容赦ない一言に呆気なく崩壊しそうになって――堪えた。
ふふふ、と腹を痙攣させての強張った笑い声に怪訝そうに眉根を寄せるも、眼の前の自称淫魔・外見体育会系熱血漢(童顔)のカサマツさんは、あっさり言い放った。


「これ、後ろ手に木に縛られて丸焦げになった躰を模すと、バナナにチョコレート掛けた姿に見えるってことなんじゃねぇの?」


――オレ、絶対思うんだけど。
絶対これ、バナナ違いだと、思うんだけど。
でもどのバナナだって聞かれたら何、オレは「オレのバナナもしくはカサマツさんのバナナです」とか言わなくちゃいけなくなるので。
無垢な瞳に耐え切れなくなってオレはそっと眼を伏せた。

「日本人ってブラックジョーク結構好きだよな。よりによって丸焦げの遺体をチョコレート掛けのバナナに見立てるなんてよ……オレが言うのも何だけど、不謹慎だな」

「いやいやいやいやそんな怖い背景持ってないからもっと単純に欧米の普段は有難うこれからもヨロシクねな習慣に脚色加えて恋人同士の日にしちゃってるだけだから日本の製菓会社さんの戦略半端ないんでね、そういうことスから取り敢えずバナナチョコ置きましょうそうしましょう」

ノンブレスで言い切ったオレは、バナナチョコをさっとその手から奪い取ると手近にあったコップに突っ込む。全く、何て勘違いをするんだこの人は――あ、悪魔なんだけど。

「……しっかし、モリヤマさんも意外とエグいこと捏造してくるんスね……」

流石にちょっとそういうのどうかと思うのだけど、カサマツさんは再びあっさり言い放った。

「や、モリヤマは『日本じゃお菓子の会社が頑張って、男性の持ってるバナナにチョコを掛けて仲良く食べ合おう! 少子化もストップ! 売上げはアップ! な販売戦略を取っているんだぞ!』って言ってただけだ。何でバナナにチョコなのかって聞く前にモリヤマ近くの女ナンパしに行っちゃったからな」

で、オレがその理由を考えた結果がさっきのだ、とオレが取り上げバナナチョコを物欲しそうに横目で見ながらカサマツさんは言った。甘いのも実は結構好きだからな。あ、そんなにバナナチョコ食べたいのならオレの――って違う、違う!

「怖! カサマツさん意外と発想怖!! っていうかそんな怖い結論で自己完結しちゃ駄目でしょ! 何でこんな甘いお菓子で残酷な背景捏造しちゃうの!!」
「残酷な事実を記号化して巧妙にその事実を覆い隠すどころか、全く正反対の意味を持たせて語り継ぐ――なんてのはいつの時代何処の国でもあることだぞ」
「だからといって美味しいバナナチョコの背景にまでそれ適用したら駄目っス!!」
「そっか」
「そうっス!」

納得したのか、どうでもいいと判断したのか。引き下がったカサマツさんを見てはぁと深い溜息一つ。何でこんなに疲れるのか。学校から帰ってきてソファにだらり、座り込んだ途端にこれだ。
オレの脚の間に身を割り込ませつつバナナチョコを差し出してきたカサマツさんに、そのまましゃがんでオレのバナナ……やばい、思考がおかしい。うん、そう、ほら何でジッパーを下げる音……ジィという音……って、

「か、カサマツさん!!?」

思考の所為じゃない。
カサマツさんが、現実のオレのモノにボクサー越しに口付けてきて。

「ちょ、え、まさかオレのバナナにチョコを掛けて!?」
「何馬鹿言ってんだ? お前のバナナって何だよ、阿呆かよ。『少子化ストップ!』ってモリヤマが言ったって言っただろ。つまりは日本人ってこういう行事毎に便乗してセックスするのが好きだってことだろ。祭気質というか何というかよ」

あ、どうやらバナナチョコとセックスは結び付けられていないらしい。あくまでバレンタインっていう行事とセックスで。
そこは是非結び付けて欲しかった。「ピンクのバナナにチョコかけたっていいじゃない、淫魔だもの。ゆきを。」くらいのノリでやって欲しかった、んだけど。


「……カサマツさん、最初っからこれ狙ってた?」
「オレが淫魔だってこと忘れんな」


ちゅっと勃ち上がったモノを布越しで吸われて、そのまま上目遣いで見上げてくるその勝気な黒の眼に。
もしかしなくても、バナナの意味正確に理解してたんじゃないかななんて思ったけど、それもどうでもいいことで。

「さっきのバナナチョコとオレ、どっち食べたいっスか?」

オレの問いに、カサマツさんはニヤリと笑って膝の上に跨ってくる。近付いてくる顔、ヤラしく濡れた唇がにんまり孤を描いて。

「愚問」
「っスよね」

オレも同じくらい、ヤラしく映るように眼を細めて笑ってキスをした。


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