黒子のバスケ

002

日焼けの境界線が薄くなり始めている裸を見て美しいと思い、感じた欲情は下半身よりも胃の底に沈み、消化されず吐き出されもせずにぐずぐずと燻るよりも低い温度でじりじりと心を焼くので、いっそこの熱を直接埋めてやろうと思う意地悪と裏腹に絵筆は汚れを知らないような彼を写し取るのに夢中だった。

美しいという言葉の奥を探っていくとそれは愛しいに変わるような気がして怖くなって眼を閉じて耳を塞いで口を噤んだ。あぁでもこの鼻を彼の肌に腹に擦り寄せれば熱に匂い立つ汗を感じて額を押し付ければ硬い膚の下の肉の生々しさに眼の奥が痛みに疼く。剥き出しの獣の歯で噛み付いてその赤を見たかった。

カンバスにぶちまけたバケツの中身の色が解らない夢を見て目を覚まして隣に眠る上体裸の男に驚きの声を上げかけた咽喉を無理矢理塞いで被さるように見てみると存外幼い顔には疲れが色濃く出ていてそれもそのはずバイトを幾つ掛け持ちしているのだったかオレのだけにすればいいのにという声はするりと。

彼の赤は血の赤であり恥じらいの赤であり怒りの赤であり昂揚の赤だった。その赤を掬い取ろうとして硬くした舌先にくるり尖った彼の先端を捉えると、途端にびくんと跳ねる躰は活きの良い魚のよう。生きたままの魚を踊り食いと称して食す文化を持つのだからこれもありだろう。踊るようによがる彼を食べた。

どうしてだろう、最初見たときには欲情しなかったその裸体は今はもう欲情の対象として眼の前に存在している。何が変わったのだろう。彼を見るこの眼が変わったのか。自分を見る彼の眼が変わったのか。欲情の対象として見るのはそれは塊過ぎていて、でもその塊を崩してやりたいと思う心には、矢張り欲情。

好きだから食べるというカニバリズムを推奨したいわけではない。食べたからにはそれなりに好きだった。でも彼を食べたのは間違いなく好きだからではなく、それが何なのかを知りたかったからだ。彼の膚の下の肉の奥の骨の内側を食らっても尚解らないそれを知りたかったのだ。それは彼ではなく自分の中にあったというのに。


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