黒子のバスケ

You're the boss.

嵐を呼ぶ男パロでキセキを呼ぶ男。
嵐…黄瀬。スティーブン…笠松さん。



「っだからそれ違うっつってんだろ!!」
「っぶねぇ!!」
背面からのハイキックを紙一重でかわされるも、笠松の想定内だった。
避けた先、涼太の足が着地したところを確認して、にやりと口の端を歪める。
滅多に表情を変えない男が、僅かたりとも顔に色を乗せたことに涼太の一瞬思考は停止し、悟る。
っばっちこ――ん!!!!
「てぇええ!!」
ゴム製の歯とはいえ、ねずみ獲りに足を噛まれ蹲って悶絶する涼太を、笠松は居丈高に見下ろす。
この男の運動神経と反射神経には笠松も一目置いている。実は頭もかなりいいことを知っている。
だがそれをどうして笠松の思う方に働かせてくれないのか。心と腹の底からの深い溜息を一つ吐く。
「全くよ……悪くないのに、どうしてまぁ」
「っててて、あの、オレ一応あなたの主っスよね!!?」
「えぇ、左様で御座います、涼太様」
がっつり顔筋を意識的に動かし、左右対称に吊り上げられた口角と笑っていない眼が怖かった。涼太は片頬を引き攣らせる。
「ですから、執事たる私としましても、もっと涼太様に主たる姿を見せて欲しいのです。――たとえば、そのような『っス』という語尾は頂けません」
「だって、癖なんス……ったい!! 痛いっス笠松さん!!」
「――後、そうですね。私のことは『笠松』とお呼び下さいと度々申し上げておりますが」
「……だって、年上なんスよね?」
涙目の上目遣いをする主は、まるで犬のよう。笠松は再び溜息を吐いた。
「年上ではありますが、立場をお考え下さい。私は執事、貴方に仕える者です。貴方様のお祖父様であらせられます、翔太郎様はもっと……」
「――オレは、オレっす」
遮る声の硬さに、笠松は息を呑む。
笠松が前の主である黄瀬の祖父のことを語ろうとするとき、いつも涼太は薄く顔色を変える。相手を眼だけで黙らせるその迫力は、やはり黄瀬の血を感じさせた。
「祖父さんがどんな人だったのかなんて知りませんし、オレが爺ちゃんと呼ぶのは武内の家の爺ちゃんだけです」
だが、どうしてこうも日に日に頑なさを増していくのだろう。負けず嫌いの涼太の性格を見越して、わざと前の主と比較していたのが最初の方。
しかし近頃では負けず嫌いの面よりももっと強く、他の感情を涼太はその眼に滲ませることが多くなった。
表情は変えないまでも、眼の奥が揺らいだのが伝わったのだろう。涼太の方から眼を逸らした。
「……笠松さんを、責めてるわけじゃないっスよ」
だからそんな眼、しないで下さい。
和らいだ涼太の声に息を吐いてしまった自分が、実は酷く緊張していたことを笠松は痛いほど感じた。


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