妥協と提案
自称淫魔・外見体育会系熱血漢(童顔)のカサマツさんが家にやって来てからもう二ヶ月経っていた。
つまりそれってイコールで、オレが家に女の子を連れ込めなくなった期間でもあるわけで。
更に言ってしまえば、何か女の子相手に勃つんでなくて、カサマツさんに見られてるってことに勃ってるんじゃないかと思うようになってきた、その変遷の期間でもあるわけで。
「――じゃあ、さっきの女はアレか、中で感じるタイプじゃなかったって言うのか」
「あぁ、ま、そうスね。外擦り上げてたときの方が声大きかったでしょ」
「確かに」
神妙な顔して尋ねてきては納得したように頷いているけど、気付いて欲しい。
会話の内容、下世話なことこの上ないから。
セックスの勉強のためとか言ってオレの下に来ている自称淫魔で実はまだ童貞もとい処女のカサマツさんは、それじゃあと次の質問をしてくる。そして答えるオレ。
何が悲しくてセックスの後に、自分が今の今まで行ってたコトに関して復習させられなきゃいけないのか。
そして何が虚しくて、カサマツさんが「中で感じる」とか「濡れる」とか「くちゅくちゅ」とかいう擬音を口にするたびに血が溜まっていく股間を、さりげなくクッションで隠さなくちゃいけないのか。
だって普段三白眼というか、重そうな瞼でじとーっとした眼差しの癖に、こういうときには凄く真剣な眼でオレの話を聞く。
そうして見るカサマツさんは、実はとても眼が大きくて。
髪も眼も綺麗な黒で統一されていることに気付いてしまうと、その眼でオレが女の子としている最中を見てると思うだけで、オレは、まぁ、勃起してしまうわけで。
女の子の方はそんなオレの事情を知らないから、自分で興奮したと思うのか何なのか解らないけど、なかなか積極的になってくれたりして、まぁいいセックスができるんだけど。
そもそも、一つ一つの行動をそこまで意識してセックスなんてしていない。
流れだ、流れ。あぁすればこうして、こうしたらそうする。
そういう流れの中で、唯相手を気持ち良くさせるって言うより、相手に気持ち良くしてもらうために気持ち良くさせて、って言うか。
しかも自分のものでよがったり喘いだり、そういうの見ると確かに優越感みたいなものがあって、一種の遊びみたいに色々試してみたりしたくなる。
それで最終的に、相手の求めに応じるようにこちらの精を吐き出すわけで。
それだって、実際相手に求めさせてのもの。自分から、この女の子で出したい達きたいってのはちっともなかった。
本音、多分オレあんまりセックス好きな人間じゃないんだなってのは思ってた。
射精したいってのが自慰じゃなくてセックスに繋がってただけ。
それじゃ何で射精したいのかってのはもう躰の仕組みだからどうしようもない。
そんな感じで過ごしてきたらあっという間に悪評風評、どうやら現在齢十六にして三百人切りの男としてカサマツさんの世界でも有名らしい。ちっとも嬉しくない。
これでもバスケットにはまってから控え目になったって言うのに。
更に言えば、カサマツさんによる視姦というか観察によって勃つ自分を認めてしまって以降は、減少傾向に拍車がかかっている。
「――おい黄瀬、射精して眠くなってんの解るけど、まだ」
ぐでぐでと思考が散っていたのがばれたらしい。けど、射精して眠くなるってそれはない。
久し振りに我が家でのセックスを終え、既に女の子を駅まで送った後だ。結構な時間が空いている。
まぁ確かに眠くなったりするときもあるけど、そんなに日中疲れていたわけでもなし、そんな激しくしたわけでもなし。
カサマツさんはあっさり自分のことを童貞だの処女だのと言えてしまうくらい、性に関してはあけすけなところがある。淫魔だからなのか。
そんなカサマツさんは、だけど少々頭でっかちなところがある。
古今東西、無駄に性知識に精通しているくせに、実践経験が皆無なのだ。童貞であるという自己申告そのままに。
だから射精したら眠くなるといっても、その程度があんまり解っていない。
「――やっぱりアレっスねぇ、カサマツさん、聞くだけじゃ駄目っスよ。実践しないと、実践」
「だから、その実践をするためにこうしてお前に根掘り葉掘り聞いてんだろ」
「んじゃ、言い方変えるっス。練習しなきゃいきなり本番なんて無理でしょ、今のまんまじゃ。何かカサマツさん、マニュアル本片手にセックスしそうで怖い」
「お前、オレそこまで馬鹿じゃねーぞ」
「でもマニュアル本丸暗記して臨むくらいはするでしょ」
「……」
押し黙ってしまう。図星だ。
この人……というか、この悪魔、どんだけ融通利かないんだ。
「……オレ思ったんスけど、ね」
ずっと、ここ最近ずっと考えていた案の尻尾の部分をちろりと見せてみる。
予想通りの食いつきで、カサマツさんは何だ何だと眼を大きくしてオレの言葉の先を待つ。
「カサマツさん、女の子にエッチなことして精気っていうんスか? それを食べるんでしょ」
「正確には性的な夢を見させてなんだけどな」
「うん、まぁそこら辺はおいといて。――だったら、カサマツさん自身が、先ず女の子がどういうことされると気持ち良くなるかって解らなきゃって思うんスよ」
「……一理ある」
「で、そこで提案なんスけど」
区切った言葉の先、を口にするのは実際躊躇いが残っていた。
だって、オレ別に男好きじゃないし。男抱いたことないし。男で勃ったことないし――カサマツさん以外で。
うん、でも、そう。カサマツさん相手には勃っちゃってんだから、きっとそういうことなんだよな。
眼の前、すこぶる健全そうな少年のように濡れてきらきら光る瞳でオレを見るこの悪魔さんに、オレは勃起しちゃえるんだから。
初めて、この人で気持ち良くなりたいし、気持ち良くさせたいって。
オレので気持ち良くなって腰とか振っちゃう姿を見たい、とか、求めさせたいとか、この人の中で出したい、達きたい、とか。
そうして、多分これ、動物だったらもっと直接的な、孕ませたいとかそういうレベルでの欲求だから。
意を決してオレは言った。
「カサマツさん、オレとセックスの『練習』しません?」
真ん丸の黒の眼が、ぱちくり、瞬いた。