kittle cattle
仕事が男絡みだと聞いた途端、ごね出した黄瀬に、幸男はでもいいのかよ、とひらひらとその手元にある写真を振った。
「今度の依頼人、お前好みの女性……」
最後の一言を言う前に、左右に振られるその写真に映る女性を認めた黄瀬に写真をひったくられる。
こういうときに動体視力の良さを発揮するのはどうかと思うが、やる気になったのならそれでもいいか、と思いかけた。次の瞬間。
「あー、今度の依頼人さんは美人じゃないスか! こりゃ早く会いに行かなきゃ抱きに行かなきゃ美人さんが一人寝なんて勿体無いスか……つごっほぅっ!!」
「っお前、本当節操ないにも程があんぞ!! 傷心の女性に何しようとしてんだこのもっこり馬鹿が!!」
「だってユキちゃん、こんな美人が、こんな美人さんが今日も一人でベッドにいると思うと……っ」
脳天に踵を減り込ませられても尚口答えをする黄瀬を、幸男は呆れた眼差しで見る。
「美人さんがお前を選ばない可能性を考えろってんだ」
「いやいや、それ本気で言ってるんスかユキちゃん?」
黄瀬は、そんなことはほとんどないのにと言外に笑った。
生来の金の髪と金の眼が愉快気に揺れたのが面白くなくて、幸男はふいと横を向く。
彼の容姿をよく兄は茶化しながらも褒めていた。こんな仕事をしているにも関わらず目立った傷は一つもない白肌も、細く癖のない金の髪も、アーモンド型の、猫のようにばっちりとした切れ長の金の眼も、女の耳に心地良い低く徹る声も、いっそモデルだの俳優だのやっときゃいいんだと、笑っていた。
「……天とやらは下らねぇ奴にばっかり二物を与えるんだな」
「何言ってんの、ユキちゃん」
幸男が苦々しげに吐き捨てた言葉に、黄瀬は笑みを潜めた。蝋燭の灯がふっと消えるように、その端正な顔から表情が消える。
視界の隅に捉えたのは一瞬、それだけなのに幸男の心は底冷えする。視線を合わせることができないまま、幸男は壁を見つめた。
そうして、兄の言葉を思い出す。でも、やっぱり黄瀬の奴はあの眼がいーんだ。
「信じてないくせに、天だの神様だの」
――黄瀬の眼は、澱んでねぇんだよ。硝子玉みたいに、キレーなんだ。
きっとそれは違う。この眼は硝子玉みたいに綺麗なのではない。
「だから幸男は、オレだって信じちゃいけないからね」
硝子玉みたいなのは、感情を完全に失うことを知っている眼だからなのだ。
幸男はずっと、壁を見つめ続けた。