黒子のバスケ

Dirty City

01

ユキがーユキが帰って来ないんだよぉおおと青峰がらしくなく取り乱した様子で黄瀬の背後にべったり貼り付いた。

「もう三日間も連絡なしでぇ、これもう絶対アノ誘拐事件に関係してると思うんだけどぉ、オレの持ってる人脈じゃさぁ、もう手ぇ尽くしたんだけど見つかんなくてぇ〜後はお前の人脈でぇ〜、親友だろぉお」

後ろから鼻に掛かった甘ったるい声で頬を摺り寄せてくる青峰などこの先絶対にお目にかかれないだろう。
だが、ぎゅうと自分より上背のある青峰に椅子の背ごとがっちりホールドされ、黄瀬は心底うんざりしていた。『白昼堂々の連続誘拐事件』で持ち切りの新聞をばさり折り畳む。
今のこの状況といい、世間様の状況といい、折角の爽やかな朝は何処に消えた。

「公私混同はしないっスよ。もらうもんもらわなきゃ」
「おっまえぇえ、くっそ、ならオレのへそくりでどうだ!?」
「ま、それで手打ちましょーか。――で、ユキちゃんの写真とかないんスか。オレ顔も知んないんスけど」

解放された黄瀬は、椅子を引いて青峰を見上げる。黄瀬が仕事を引き受けたことに取り敢えず満足したのか、ちょっと待てと言い置いて一旦自室に引き上げた青峰は、次に戻ってきたときその腕にたんまりと山のようなアルバムを抱えて持ってきた。

「……何スかそれ」
「ん? 見たら解んだろ。アルバムだよ。これ全部ユキのだから、どれでも持ってけ」
「……」

まさか青峰がシスコンだったとは思わなかった。しかもこれはかなりの重症だ。

「オレのオススメユキはなぁ」
「いや、いっス。皆ユキちゃんの写真なんでしょ――」

一匹狼の青峰のイメージが完全に崩壊する前に自衛する。
完全に、親馬鹿ならぬ兄馬鹿である。いや、幼い頃に両親を亡くしたと聞いているから、やはり親馬鹿なのか。
若干げんなりしつつ、黄瀬は適当にはみ出た一枚を抜き取った。
青峰もなかなか見目の良い男だったが、その青峰が常日頃から散々可愛い可愛いと言っているのだ。身贔屓は多少あるだろうが、きっとそれなりの――。


02

「いやいやいや、ありえねース、本当青峰っちの眼腐ってるんじゃないっスか」

写真を片手に街を歩き回る黄瀬は、何度目か解らない溜息と愚痴を零す。

「何処をどう見たら可愛いんスかこれ、お世辞でも可愛いって言えないっスよこれ」

学校の文化祭か何かで撮ったのだろう、下手な化粧を施した肩辺りまでの黒い髪のセーラー服の少女と、同級生らしき学ランの少年がツーショットで映っている。
二人とも子どもらしい朗らかな顔で笑っていて、それだけを見れば確かに可愛い。自分にこんな時代あったっけかと思い返すのをどうしたって止められない。
だが、あくまで可愛いと評価をしているのは見目の点ではなかった。
青のアイシャドウは塗り過ぎて最早青痣、かと思えばチークの色は真っ赤。下地に一体何を使ったのか白すぎる肌。これは山海塾なのか。
ここまでくるとセーラー服のピエロという新ジャンルの開拓に励んでいるのかと思いたくなるほどだった。どうしてこうも下手な化粧になるんだ。

「絶対これ地顔もぶさ……いやいや、女の子にそういうこと言っちゃいけないスよ、オレ」

声に出して自制する。そして青峰の前ではけして言わないようにと心に誓う。恐らく「ぶ」と発声した瞬間に黄瀬は蜂の巣にされるだろうから。
むしろこれ、隣の少年の方が可愛い顔をしているぞ、と視線を移す。
太い眉に勝気な黒の大きな眼、吊り上がった眦は猫のよう。まだまだ全身の筋肉が薄く、学ランに着られている感じがするのがまた可愛い。きっと背もあまり高くないだろう。
少年らしく溌剌とした笑顔で写真に収まる姿は、こちらの世界とは随分かけ離れた陽のにおいがした。

「折角ならこっちの子の方がいいんスけどねぇ」

ぼそりと呟いた言葉は、雑踏のざわめきに掻き消えた。


03


04

しかし失踪した妹は一体何処に行ったのか。
自身の意思で消えたのならばまだしも、そうではないときのことを青峰が心配しているのは解っていた。
お世辞にも褒められたものではない稼業だ、身内が狙われる可能性は常に付きまとっている。

(青峰っちの情報網でも引っ掛からなかった、となると……)

黄瀬は視線を走らせて街の端々にいる眼を確認する。返事が来ないのは、何もないからだ。沈黙以上に信頼できる言葉を黄瀬はまだ知らない。自分が、人として当たり前のことを知るようになって随分経つが、これだけは変わらないままだった。

(後は、それしか残ってないか)

青峰は裏に精通しているが、黄瀬は裏の更に奥までを知っている。それは汚い話以上に血腥い話が横行している世界だ。――しかし、そこに本当に青峰の妹が絡んでいるとなると厄介だった。

(まぁ、売られることはないだろうけど……バラバラにされちゃったら、解んないスよねぇ)

擦れ違う人々――主に女性からの色っぽい視線にお応えしたい気持ちを今ばかりは抑え、裏道に近い情報屋は、と彼の普段の縄張り近くに足を向ける。情報屋の中でも精度の高い情報を持っている彼ならば、多少の手がかりは期待できるだろう。


C.H.アニメ第三話パロディ

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