黒子のバスケ

アン・ラヴズ

誕生日を知らない、ということに寂しさを覚えたのは初めてだった。それは自分の誕生日が余りに知られ過ぎていたからかもしれない。
雑誌をめくれば、インターネットに、名前を打ち込めば、あっという間に出てくる自分の情報。自分ですら知らないような自分の情報が氾濫していて、最初自分の名前を好奇心で検索してみたとき、怖くなって直ぐにブラウザを閉じた。
学校で、街中で、自分を見つめる眼がそこにはあった。好意と悪意が綯い交ぜになって、嘘も真も一緒くたになったものが、全ては見た側の判断に丸投げされている世界。薄い画面の向こう側の無尽蔵の情報はさながら混沌で、見えないものが見えた、と思った。自分が見せようと思っていなかったもの、見せたくなかったものすら、そこにはあった。
それからだ。他人の情報を知ろうとすることが何故だか酷く悪いことのように感じられた。
知りたいのなら自分から聞く。それ以外のことで、彼についてを知りたくなかった。しかし、どうやって聞けばいいのかも解らなかった。
二人は恋人で、自分は彼の誕生日を、聞こうと思えば、知ろうと思えば知ることはできた。きっと今からだってメールなんなり電話なんなりで聞けば教えてくれるだろう。
それでも自分はちゃんと、相手と一緒にいるときに聞きたくて。

だって誕生日を知らない、ということに寂しさを覚えた時。
今まで他人の誕生日なんて興味の欠片もなかったのに、そんな気持ちを抱いた自分にも驚いたが、それ以上に。
自分にそんな気持ちを抱かせてくれた相手の存在の大きさをまた思い知らされて。

だから、黄瀬は笠松に聞いたのだ。
センパイ、誕生日いつですか。
部活帰り、二人きり。橙の夕陽に染まった道にぐいんと伸びる黒い影二つは付かず離れずの距離。夏の影は濃いけれど、境界線は何処かぼんやりしてもいて、熱気に滲んでこのまま夜の中に溶け込んで行くのだろう。
このままセンパイと溶け合えたら、なんて、未だに躰を繋げたことがないのにも関わらずのことをちらり頭の片隅で考えた時。

笠松は吃驚したようにその大きな眼を更に見開かせて、それから破顔した。夕陽に照らされた顔は、子どものように、嬉しそうに楽しそうに、そしておかしそうに。

「今日、だよ」

オレの誕生日。お前、何、狙って言ったわけじゃねえだろ?

恋人の誕生日を、恋人の誕生日に知って、二人は帰り道に並んで歩いていて。
思いも寄らない告白に呆けた黄瀬が口にしたのは、一言。

今日で十八禁解禁なら、ウチ来ませんか。

お前が言うなと殴る手と裏腹に、爪先は黄瀬と同じ方向を向いていて、顔は真っ赤になっていて、でもそれもきっと夕陽の所為だった。
そういうことにしろと無言の上目遣いで睨んでくる恋人に、黄瀬の理性はもう溶けかけている。



an loves

20120729