黒子のバスケ

honeyed eyes

息が上がる。押し付けられた滑る熱が何なのかを理解したくないから逃げる思考を責めるように宥めるように耳朶に押し付けられる言葉が脳内に蕩けていく。

――ねぇセンパイ、大丈夫っスから、ね。

何処が大丈夫なんだと返したいのに、埋め込まれようとしている先端に躰が竦んで咽喉が細くなって声なんて出せなくて。
嫌だと駄々を捏ねる掌を包む、一回り大きな掌は懐柔するように脅迫するように安心させる、ように。
しっかりと絡められた指と足と視線とに、黄瀬、と縋った自分は相手の瞳に滑稽なほどはっきりと映っていて、それが自分にも解って。
黄瀬、と怯えて再び口にしたら、すぅと細められた琥珀が切ないような苦しいような色を増したように思えて。
きせ、と悲しくてまた呼んだら、……大丈夫っスよ。泣き笑いを堪えた眼と、堪え切れずに滲んだ語尾が心を締め付けてきて。

――ねぇセンパイ、お願いだから、ね、オレを見てて。

何でお前がそんな声を出すんだと思って。


――オレだけを見てて。


言われなくても。





「センパーイ、ねぇ、笠松センパーイ? どうしたんスかー!?」
「……別に」
「だったら何でそんな篭城態勢なんスか!? や、っぱり、あの、腰つら……」
「うっせえ黙れ!!!」
「センパーイ……」

だったら何なんスかーとだうだうという擬音表現が適当な情けない声を出しながら、ベッドに上半身を投げ出す黄瀬と対照的に、笠松はシーツに包まって壁の方を向きながら、ひたすら貝のように身を固めて沈黙を続けていた。

黄瀬を受け入れた場所は、彼が入っているような感覚を残したまま痺れている。
その精を叩きつけられた腹の上にも、まだその白い跡が残っているような感覚がある。
押し付けられた躰の重さや熱さだけじゃなく、優しく拘束された掌にも、荒々しく貪られた唇にも、甘く舐られた耳朶にも、躰のそこかしこに黄瀬の痕跡が残されているようで、それが今も躰を熱くしていて。

でも、さっきから頭の中をぐるぐると鳴門の渦潮よろしく巡り続けているのは。


(何で、よりによって同じこと言うんだよ……!)


何でもない言葉だったはずなのに。
とんでもない状況で使われてしまったら、それで上書きされるのは自然なことで。
今後あの試合のときのことを思い出そうとしたら、今日のことも思い出してしまう。
それくらい強く、深く、躰にも心にも刷り込まれた。


(……っ黄瀬の馬鹿野郎が……!!)


そんな笠松の心中を知る由もない黄瀬は、主人に相手にされない飼い犬のような悲哀さすら滲ませながら、笠松が顔を出すときまで彼の名前を呼び続けていた。


honeyed eyes:〈造〉甘ったるい眼差し、情欲に満ちた目
アニメの改変に乗っかってみた一作。

20120428up