fall in
それが恋だと知らなかった頃のことを考えてみた。
笠松はまだ高校生で、黄瀬もまだ高校生だった。
高校三年生と高校一年生。
十七歳と十五歳から、十七歳と十六歳になって、十八歳と十六歳になった。
その頃はまだ幼かった。
だからだろうか、黄瀬はよく笠松に尋ねていた。
『センパイの好きと、オレの好きは同じだよね?』
好きという言葉で表されるものには庇護や優位や執着や偏執が専有があり、そこに肉欲の対象となることまで含まれていることくらいは笠松とて知っていた。
しかし、黄瀬が最初から最後のものを意識して笠松に好きだと告げていたのだと笠松が知ったのは、全てが終わった後だった。
『センパイの好きと、オレの好きは同じだったんだよね?』
痺れて動かなくなった笠松の下半身を拭きながら、黄瀬が口にした言葉をどうして否定できただろうか。
同じだと、ずっと口にしてきたのだ。
同じだと、黄瀬の言葉を肯定し続けてきたのだ。
同じだと、笠松も思っていたのだ。
だから。
『――過去形で、確かめるような口振りで言ってんじゃねぇよ度阿呆が!!!』
誘うように、騙すように、少しでも早く一度でも多く。
躰の関係を持ってしまえば否が応にも黄瀬が自分と同じ意味で好きだと口にする日が来るだろうと立てていた算段はそのときに瓦解した。
そうして残ったのは同じだった。
黄瀬と笠松が口にしていた「好き」は最初から同じだった。
最初から、二人は恋に落ちていた。それだけの話だったのだ。
fall in:期限切れになる。出会う。罠に嵌る。