黒子のバスケ

start a hare

「お前等、本当に懲りないなぁ」
苦笑する小堀に、懲りないお前等こと森山と黄瀬は揃って頬を膨らませた。
今、部室にはこの三人しかいない。小堀は自主的に、そして森山と黄瀬は居残りを命じられての待機だった。
「だって、小堀先輩だって笠松センパイのあれは酷いって思うでしょ!?」
「まぁ、酷いっちゃ酷いけど、お前等も何もあんなことまでしなくていいだろうに」
『あんなこと』とその後の顛末を思い出しながら小堀が笑う。
今日の練習前、部室に入った小堀が眼にしたのは、散乱する雑誌と隅っこで膝に顔を埋めて体育座りをする笠松だった。
死後硬直かといわんばかりに微動だにしない鬼の主将の姿に、小堀は一瞬我が目を疑った。中学からの付き合いだったが、笠松のこんな姿を見たことがなかったのだ。
大丈夫か幸、どうしたんだ。駆け寄った小堀は、ぎぎぎっと見上げてきた笠松のその顔が、真っ赤なこと――いや、むしろ全身が真っ赤になっているだろうことに気付いた。どうした笠松。こぼり、あれ。あれ?
『あれ、何だ……?』
震える指が指し示した場所には散乱する雑誌。部で年間購読している『月刊バスケットボール』だ。何だと言われるようなものではない。
それでも笠松の尋常じゃない姿に、腰を上げて手近にあった一冊を手に取って――絶句した。
「――だって、まさかあんな極端な反応するなんて……」
流石にばつの悪そうな顔で反省の色を見せる黄瀬とは裏腹に、森山はあっけらかんとしていた。
「オレは予想してたがな」
「ちょ、だったらちょっとくらいブレーキになって下さいよ!」
「面白いことが解っているのにどうしてやめなければならないんだ!」
「……そういう人スよねぇ、森山先輩……」
はぁと零した溜息も自然深くなる。
いくら加担した身とはいえ、これから後のことを考えると気が重い。黄瀬の可愛い恋人は、しかしその可愛さ以上に拳と足で語ることが多かった。
「いや、あれはまぁ、やりすぎの感はあったよ。手が込んでる分、二人が本当に幸の女性免疫をつけようとしているんだなぁって思ったけど……」
中身が成人向け雑誌だったら、幸じゃなくたって驚くよ。フォローの権化の小堀も今でこそ笑っているが、あの場面では流石に言葉を失った。
開いた雑誌を手に、ぎぎぎっと笠松の方に向き直ると、ぼんと笠松の顔が火を噴いた。
『ミセルナ、ヨ……!!』
片言になった笠松に、小堀は自身が笠松に見せてはいけないものを見せていることに気付き、はっと雑誌を閉じた。
小堀が持っていた雑誌の中身はグラビア――それも袋とじになる類の少々過激なそれ――だったが、試しに他の一冊を開いてみるとこちらは露骨に成人向け雑誌だった。
二人とも何も言えず、貝のように口を閉ざした。
犯人は解っていた。海常バスケ部が誇れない残念なイケメンと残念なモデルわんこの二人組――「笠松の女子免疫力をつけよう!」の会の会長・副会長だ。
沈黙の帳が降りた部室内に、その二人が「てっててー!」というドッキリ成功時の音楽を口にしながら入ってきたとき、休火山笠松は一気に噴火した。
「……ってか、でも、今まで本当どうしてたんスか、笠松センパイ? 高校三年間『あぁ』と『違う』だけで女子を乗り切ってきたってある意味神業っスよ?」
黄瀬はベンチに腰掛ける小堀に、当然の疑問を投げかけた。
――あの後、噴火に直面し屍と化した二人に、収まらぬ怒りのままに笠松は練習後の居残りを命じた。
しかし、練習後に笠松に早川が助言を求めたこともあり――森山と黄瀬のせめてもの良心は、この熱血純情一直線の早川を巻き込まなかったことだ――、二人を体育館に残して先に上がっていたのだ。
小堀は黄瀬の質問に、あぁ、と少し申し訳なさそうな顔で応じた。
「それって、結構オレの責任でもあるかなぁとは思うんだけどさ」
「? どういう意味っスか?」
海常バスケ部の良心が口にした一言が意外で、黄瀬は小首を傾げる。小堀の隣に座った森山は、この本折角姉ちゃんの彼氏に借りてきたのになぁと零していた。
この雑誌の月バス擬態は、実は森山ではなく森山の姉の彼氏が既に仕上げていたものだった。これには黄瀬も「お姉さんその彼氏で大丈夫なんスか!?」と驚くしかなかった。即座に「その不安はオレがいつも笠松に抱いているものと同じだ」と返されて無言になるしかなかったのだが。
「――あのさ、オレ一年のとき幸と同じクラスだったから、何て言うのかな、窓口になっちゃってたんだよな」
中学時代から笠松のあれを知っている身としては、高校生活の出だしから笠松がコンプレックスを感じてしまうような事態になるのは回避させてやりたかった。
中学時には、まだ女子の方もそれほど色気というのを出すこともなかったから、ぎりぎり笠松の対応も間に合っていた。端から見て随分と心臓に悪い対応ではあったものの、だ。
だが、高校ではそうもいかなかった。
入学二週間で、疲労が色濃く顔に出ている笠松を見て、それが部活だけの所為ではないことに小堀は気付いた。
県内でも有数の進学校である海常高校に特待生入学していることだけでも注目を浴びるのに十分なのに、加えて全国常連であるバスケ部への推薦も含めてのそれだったと知られると、俄然興味を持たれるようになった。その頃の笠松が、今よりも背が低く一七〇センチなかったことも一因だった。
マスコットに接するように話しかけてくる、色気を醸し始めた女子。
そして顔を真っ赤にして俯く女子免疫ゼロの笠松。
童顔と身体の小ささも相俟って、その様がまた可愛く見えたのか、一層話しかけられるという悪循環に陥っていた。
このままではいつか笠松が鼻血による貧血で倒れる。
真剣に危ぶみ、外敵にどう対応していいか解らない雛鳥を庇う親鳥の気分で、小堀は笠松と女子の間で橋渡しをしてやるようになった。
そして、そんな気分にさせられたのは小堀だけではなく、同じ中学出身の男子生徒や、二週間で笠松という男を知った同級生の男子もだった。
女子に囲まれそうになる前に、さりげなく、笠松の初心さも会話に鼻につかない程度に織り交ぜる。
クラスの女子生徒が、そんな笠松を笑うことなく受け入れてくれたこともあり――むしろそれすらも好意的に見られていた――、一年経過する頃にはクラス内のみならず「笠松は女子と話すのが苦手」という共通認識が生まれていた。
「――というわけで」
小堀の説明が終わった後、部室内は異様な空気を孕んでいた。
「…………何スか、それ…………」
異様な空気の発生源である黄瀬は、小堀の話が進むにつれて深く刻まれていった眉間の皺を親指で均すように幾度か押し撫ぜる。
「え、何でそんなに笠松センパイハーレム作っちゃってんスか、女子だけでなく男子にも庇われて構われるってどんだけ愛されキャラしちゃってんスか」
乱暴にロッカーに背中を預け、不機嫌さを隠せずに黄瀬は矢継ぎ早に口にした。
「ほら、幸今でも童顔なのに、更に背ちっちゃかったからさ、威圧感とかもなかったから女子も話しかけやすかったみたいで。それでいて中身はあれだからさ、男は男で親しみやすかったっていうのかな」
「や、それは解ります。解るんスけど――……」
歯切れ悪く答えるしかできず、黄瀬は整えたばかりの髪をぐしゃり掻き回した。
黄瀬とて、笠松幸男という人がむしろ同性に好かれる人間だということくらい解る。
矢面に立つことを厭わない――それだけでも十分過ぎるくらいなのに、自分の努力は当然のものとして驕らず、他人の努力や頑張りには助力と賞賛を惜しまない。
どんな苦境にあっても最善を尽くす姿を見せつけられて、僻むことすら馬鹿馬鹿しくなって、冷めた眼差しで見ようとしても焚きつけられている自分がいて。
だから黄瀬にも、そんな笠松が困っているならば手を貸そうとする友人の気持ちは解るのだ。
――そこまで考えても、この腹の中にぐるぐると渦巻くものは、消えることはなかった。少しでもその動きを抑えるようにして腕を組んだ。
「――嫉妬か、黄瀬」
にやり、という言葉が適当な腹に一物抱えた笑みを森山は浮かべた。その脇には件の雑誌が山積みにされている。
「……別に、そういうんじゃないスけど」
「あれ、違うのか? オレはてっきり『オレの笠松センパイなのに!』とか何とか思ってんだと」
「……馬鹿にしてますよね」
「うん」
きっぱりと言ってのけてくれた分、噛みつく気も失せる。腹の底の凝りを解すように、深く息を吐く。
「ホント、そういうんじゃないんスよ。唯――何て言うんスかね……」
ちらりと小堀に視線を向ける。今の話の中だけでも、小堀を羨む要素は満載だった。
背の小さい笠松を黄瀬は知らないし、女子に囲まれて真っ赤になって俯く姿も知らない。そもそも、笠松が特待生であることも知らなかった。笠松自身がそういうことを口にしない人だった。
でも、中学からの付き合いである小堀は知っているのだ。
黄瀬には中学からの知り合いという知り合いが海常にはいない。バスケ部で共にキセキの世代と謳われた面々は、それぞれ別の高校に進学した。
唯一、一緒にまたバスケをやりたいと思った相手は、彼の選んだ道で彼のバスケを楽しんでいた。
人間関係の濃い薄いを考えたわけではない。言葉にされるものが全てと思っているわけでもない。
キセキはキセキで確かな繋がりを持ち、それは絆と言い換えてもよかった。
キセキ以外とでは共有できない、酷く独占的で排他的な絆。
唯、穏やかな表情で笠松のことを語る――語れる小堀を見て、思った。
笠松もきっと同じように、小堀のことを語れるのだろう。小堀だけではない、森山のことも、今尚体育館で練習を見ている早川のことも語れるだろう。人のことをよく見ている人だ、レギュラー陣以外の部員のことだって、もしかしたら語れるかもしれない。
――ならば、笠松は自分のことも同じように語ってくれるのだろうか。そう思って、緩く頭を振った。
同じならば、いらない。他の人と同じものが笠松から欲しいわけではない。それなのに、どうししてだろう。
「……寂しい、んスかね」
笠松と小堀、他の面々との間にあるものは確かな絆ではあるけれど、黄瀬が知っているような排他的で、ある種の緊張感を伴うものではなく、たわみをもって形成された緩やかなもの。
その中に入ることに、黄瀬は躊躇いを持った。以前抱いた疎外感とは全く異なる、黄瀬自身の中の躊躇が一歩踏み出すことを鈍らせた。
自身が零した言葉が思いの外暗く響いて、これは揶揄われるなと思った途端に森山が口を開いた。
「――寂しいって、お前は兎か、黄瀬」
「……兎って別に寂しくても死なないんでしょ」
定型句を口にした森山に、苦笑しながら返すと、「比喩だ、比喩」とさらっと流された。
「更に言えば、兎の性欲と繁殖率は凄いらしいぞ?」
「――いや、だからオレ兎じゃないっスよ……」
「まぁ、黄瀬は何ていうのか、気位の高い猫かと思ったら、思いの外人懐こい犬だったって感じかなぁ?」
「小堀先輩まで、何乗っかってんスか」
森山が兎の比喩に込めたものには触れずに――むしろ気付かなかったのだろう――黄瀬を犬に喩えた小堀は、「幸の側にいるとき、下手すると尻尾が見えるときがあるぞ」と笑った。
「尻尾って」
「だから、ほら、構いたくなるってことだろ」
ほれほれと森山に手招きされる。年功序列の精神に則って素直にその前まで行くと、ぐわっと伸びてきた両手に頭をぐしゃぐしゃと撫で回された。
「ちょ、なにっ」
「ほーらほーら、寂しがり屋のモデルなんて女の子が好きそうなスキル見せてんじゃねぇぞー」
「ちょ、髪、折角髪整えたのに!」
「でも黄瀬の髪、さらさらだから手櫛でも十分じゃないか?」
「そういう問題でもなくて、ちょっ」
「――何やってるんだ、お前等は……」
呆れ声が背後でして、何とか森山の手を頭から引き剥がした黄瀬は勢いよく振り返ると、笠松と早川が連れ立ってそこにいた。
いつの間にか戻ってきていたらしい。直後、森山サンと小堀サンもまだ残ってたんスか!と笠松の背後でがなり立て、早川は問答無用で裏拳を食らっていた。
「――お疲れ様っス!」
入り口で痛みに蹲った早川の手当に小堀がベンチを立ち上がったのと擦れ違いに、何事もなかったような顔で笠松が近付いてくる。
「お疲れ――ってか、お前、」
頭凄ぇことになってんぞ、と笠松はバッシュの入った袋をロッカーに入れるより前に、黄瀬の真正面まで来ると軽く手櫛で整え始めた。
「まがりなりにもモデルさんなんだからよ、そこら辺は一応気ぃ使っとけ」
口では愛想の欠片もないことを言い、髪を梳く指も乱暴だったが、苦笑混じりの声と細められた眼が黄瀬には柔く響いた。
「ったく、うちの部はどうしてこうも手のかかる犬みたいな奴ばっかなんだよ」
「……犬って」
「比喩だ、比喩」
先程森山が口にした言葉と一言一句違わない台詞に、黄瀬は思わず笑みを零していた。同じ環境にいると、言葉の使い方も多少なりとも影響されるのだろうか。
笠松自身、説教するために森山と黄瀬を居残らせていたことを忘れたわけではなかったが、あんまり乱された髪の毛が気になってついそうしていた。
仕上げの代わりにぽんぽん頭を叩くと、黄瀬が、センパイ、と呟く。律儀にお礼でも言うのかと思って、軽く伏せられた眼を覗き込むように見上げた。
「んだよ……――っあ?!」
「タイミング、良すぎでしょ!? 何、どっかで盗聴してたんスか?!」
「と、盗聴!!? 人聞きの悪いこと抜かしてんじゃねぇぞコラ!! つか離せ、離しやがれ馬鹿野郎!!」
笠松はぎゅうと腰に巻き付けられた腕を何とか剥がそうとする。だが、離すどころか一層の力を込めて抱き締められて、まさに藪蛇だった。
「ちょ、お前――ここを何処だと、」
「あのねそれとね、センパイ色んな人誑し込み過ぎっス! そういうの今後一切全部オレ限定にして欲しいんスけど! 禁止、他の人誑し込むの禁止! 小堀先輩相手でも禁止!!」
「――っ意味解んねぇことばっか、ほざいて、お前、いい加減に、――しろぉおおお!!」
「っぅおっ――ぅ……っ」
急所を膝で蹴り上げられ、ずるずると崩れ落ちた黄瀬は、それでも笠松にしがみついて離れようとはしなかった。
仁王立ちする笠松の足に縋り付く黄瀬の構図に、ベンチでその全てを見ていた森山は思わず携帯電話を取り出して写真に撮りたくなった。男女だったらかなりの修羅場だが、男同士、しかも片や童顔、片やモデルのその構図はむしろ笑えた。
「大丈夫かー黄瀬ー?」
それでも声を掛けてやるのが、この後の説教を自分一人免れることになったことに対してのせめてのも礼だろう。
先の黄瀬と笠松のやりとりの間に、山積みにしておいた雑誌の一群は紙袋にしまってベンチの下に隠しておいた。現状を鑑みるに、笠松の怒りは今し方の黄瀬の行為に集中するだろうが、念には念を入れておくに越したことはない。
「……ご心配有難いっスー、今日一日は、使えない感じっスー……」
息も絶え絶えといった態で尚笑顔を忘れないのは、モデルとしてのプライドか根性か。負けじと森山も良い笑顔で応えた。
「そうかそうか、それじゃあオレらはお邪魔しちゃいけないよな? な?」
異論を挟む余地を与えずに、手早く自分と小堀と早川の荷物を掻き集めて部室入り口に向かう。小堀が「あれ、お前も」と余計な一言を言いそうになったので早川の荷物を頭の上に落とした。
「うわっ!」
「さーて、早川お前もうこの時間なら廊下で着替えても大丈夫だぞーさーて廊下に行こうか、廊下」
本来は禁止されている行為でも、今この部室内で早川を着替えさせるわけにはいかない。
ここはあくまで黄瀬と笠松二人きりにしておかなければ、下手するとこの男まで巻き添えを食ってしまうかもしれない――そんな先輩心だった。
「……でもオ(レ)バッシュをし」
「まうのは教室の方のロッカーでもいいんじゃないかよし今日はオレが帰りにマジバで奢ってやろう百円の奴一個だけな!」
「マジっすかあざっす!!」
疑問を力技と言葉巧みに封じ込めて、森山は小堀と早川の背中を押しつつ部室を後にしようとする。
背後では未だに黄瀬が笠松の足にしがみつき、笠松は笠松で黄瀬を蹴り離すこともできずに頭を引っ掴んで遠ざけようとしていた。
「離せ、離しやがれ馬鹿!!」
「い、や、で、す――〜〜〜〜っ」
今し方自身で黄瀬の髪を整えてやったばかりだということはすっかり頭から抜け落ちているらしい。ぐしゃぐしゃと乱された髪の黄瀬を見て、それでも美形というのはそれなりに見れるものだと森山は一人感心した。
「それじゃあお先になーお疲れ様ー」
笠松と黄瀬には聞こえない程度に小声で、しかしきちんと帰宅の挨拶を告げたのは明日の朝への保険。案の定、ちっとも聞こえていないらしいことを確認して、森山はそうと、音を立てないように慎重に扉を閉じようとしたのだったが。
「お疲れ様っした!! 今日は有難う御座いました主将!!!!!!」
律儀で熱血な早川の鼓膜を劈く大声での挨拶に、全員の動きが一瞬停止し、沈黙が降りる。
ヤバイ、と思った森山が動くより早く、はっと我に返った笠松がとっさに投げたバッシュの入った袋が後頭部に直撃した。
「何こっそり帰ろうとしてんだ森山ぁああああ!!!!」
「――――っいや、オレちゃんといっ……」
「戻れ、そしてここに直れ!!!! お前もだ黄瀬ぇ!!!!」
「ぷぎゃっ」
黄瀬の顔面に笠松の掌底が減り込む。
堪忍袋の緒が切れ、怒り心頭に発し、そして怒髪天を衝いている笠松の言葉に逆らうことはできなかった。森山は重い躰をゆっくりと反転させた。
明らかに黄瀬の行為の所為で、笠松の怒りは何割か増しになっている。折角黄瀬一人におっ被せることができたかもしれないのに、状況は一転、地獄の釜の蓋がぱっくり開いて森山を今か今かと待っている。
「恨むぜ、駄犬ズ……」
がっくり肩を落とした森山を、フォローの権化・小堀がまぁまぁと宥めた。
「今日怒られとけば明日の朝はすっきりとした気分で迎えられるだろ?」
「……そういう問題とは違うぞ、小堀……」
むしろ明日の朝は恐らく全身筋肉痛で最悪の目覚めになるだろうことを予感し、せめてストレッチをやっておこうかなぁ、と森山は半ばやけっぱちになった。
「あ(れ)、森山サン、オ(レ)廊下で着替えた方がいいスか!!」
「いっそ校庭のど真ん中で着替えてもいいぞ? 後マジバの件なしな、なし」
「えええええ!!?」
自身の華麗なる計画を跡形もなく潰してくれた早川ににっこり毒を吐く。途端に「早川に当たってんじゃねぇぞ森山!!」と笠松に火を噴かれ、森山は観念しつつも溜息を吐くのを抑えられない。
折角途中まで上手くいってたのになぁ、と呟いた声は、幸いにも笠松と黄瀬に聞かれることはなかった。





(これが海常高校バスケ部の日常茶飯事です。)


start a hare::問題を提起する;(話を逸らすため)別の問題を持ち出す。

(20119611~12)