苦しみは変わらない。変わるのは希望だけだ
男鹿というのは無愛想の癖にやたらいい女が集まる。ヒルデガルダしかり、邦枝しかり、和洋不問で、その内「中」まで出てくるのも時間の問題かもしれない。
そして男鹿というのは、いい女が集まる癖に無愛想なのだ。それはもう、黒い悪魔と呼ばれるものホイホイだとか、夏真っ盛りの森の中で点ける懐中電灯ばりに、いい女を集めるのに無愛想。もしくはあれだ、誘蛾灯だ、と男鹿の喩えをつらつら連ねていた古市は、しかしそこではたと気付く。
(……虫と可愛い女子を同列に並べんのも失礼だよな、うん)
男鹿自体はどうでもいいが、男鹿に集まる女性陣は敬うべきだ。根はそれなりにフェミニストな古市は、それじゃあ綺麗なものをほいほい集めるものって何かあったっけ。気兼ねなくベッドに仰向けになり、視線を見慣れた天井の隅に飛ばした。
(綺麗可愛いものほいほいねぇ)
綺麗といったらお姉さん、可愛いといったら女の子。その方程式が絶対になっている古市の脳内では、導き出される答えもまた限られている。連立だとか二次だとかそんな高尚な方程式ではなく、一次方程式だ。xを求めればいいだけなのだから。
綺麗なお姉さん、掛ける、xイコールもてる。
可愛い女の子、掛ける、xイコールもてる。
綺麗なお姉さんが集まるものは、可愛い女の子もそれなりに集まるだろう。微妙な差異はこの際無視だ。式を明快かつシンプルにした古市が、解を導き出すのにはさして時間はかからなかった。
(……恰好いい可愛いとか、そういう? 同系統のもん?)
自身が導き出した解もまた明快かつシンプル。だが、古市は即座にその間違いを知る。
「だって別にこいつ、恰好良くも可愛くもねぇし!!」
今時短ランで髪も染めずに日々喧嘩に明け暮れているような男――そう、奴は笑い合いながら殴り合う類の人種だ――が、どうして恰好いいだとか可愛いだとか言えるだろうか。否、あれは断じて格好良くも可愛くもない。どの角度から見ても唯の一不良にすぎない男の、どこにもてる要素があるというのだ。薄い腹筋を使って起き上がると、胡乱気な視線とがっちりぶつかった。
「おい、古市お前、人が苦労してるときに、人んちのベッドで我が物顔でくつろいでんじゃねぇよ」
「お前が進めんの遅いからだろうが。さっさとそこ抜け出せよ。ぐるぐる同じとこ回ってんじゃねーか」
男鹿の頭を爪先でちょいちょい突付くと、やめろ汚ねーと振り払われる。日々喧嘩に明け暮れるその手は節くれ立って硬いが、思いの外軽く足に触れた。躊躇いなく人を殴り飛ばす癖に、この手はちゃんと力加減というのを知っていた。それはあの魔王の子どもが来て以降、一層顕著になったような気もする。
「……何だ、これはギャップって奴か。女の子はあれか、ギャップ萌えなんか男鹿」
「知るかよ。ってかそもそも意味解んねーし」
ほれ、終わったぞと乱暴に放り投げられたコントローラーを、古市は難なく受け止めた。
男鹿と古市