べるぜバブ

老いて呟くそれは誰だ

折り重なった葉っぱの隙間から落ちる光は円く、まだらな模様を男鹿と古市とベルゼバブの上に落としていた。遠い光、近い光、遠い陰、近い陰。光と陰の柔らかな濃淡だけで、色彩というものを一切放棄したかのような空間は、同時にとても静寂だった。
音がない、というのはおそらくこういうことを言うのだろう。古市は背もたれに背中を預ける。上向いた視線は遠くに晴天を捉える。もくもくと見える入道雲は、子どもの頃にはワタアメだかき氷だと夢を膨らませてくれたが、今となっては夏の象徴だった。そう、夏だ。夏そのものを空に見て、何でこんなに夏なんだよ、と文句を垂れる。でも、何と言おうと、夏だ。音がない、夏。
実際には、風が揺らす葉の音も、道を転げる小石の音も、二種類の蝉の鳴き声も、隣にいる男の吐息も、赤ん坊が喉を鳴らす音も、聞こえている。けれども、それは音というよりも画だった。まるで造られた画。一瞬一瞬が停止している。
男鹿家と古市家から丁度等距離にある公園の隅に置かれたベンチに腰掛け、木の陰に涼みながら、古市はぼそりと呟いた。
「……オレ、ジジイになってもお前が隣にいそうでイヤだ」
「ワガママ言うなよ」
「どこがワガママだ。至極真っ当だろうが」
毎度の阿呆な返答に毎度のように呆れながらも、これが後何年続くんだか、と考えてしまっている辺り、古市も男鹿とさして変わりがなかった。


男鹿と古市

(それはお前とオレなのか)