on tiptoe
時折凄く凄く嫌になる。
開いた携帯を閉じて放り投げて布団に潜り込んで瞼を閉じて。
降ってきたのは腹に溜まるような重く質量感たっぷりの声。どうしたんスか。何にも。だって頬赤いよ?
くすくす笑いを噛み殺して、久方ぶりに抱き合った男は笑みを口の端に留めたまま手を伸ばしてきた。汗で額にへばりついた前髪を遊ぶように分けたり掻き混ぜたりする。伸びましたね。まぁな。オレセンパイのでこ出てる方が好きっス。…前ガキくさいっつったのお前だろ。違うよ、子どもみたいで可愛いって言ったんスよ。同じだろ。違うって。
頬を膨らませむくれた顔をする男の、その掌がこめかみを滑り頬に添えられる。親指が頬の高い部分をくるくると回り、転がり落ちるように僅かに開いていた唇の合間に入り込んできた。…本当素直じゃないんだから。会いたかったのは、オレもなんだよ?
携帯には予測変換機能がある。
さっき、明日の練習についての急な連絡に直ぐ返して。だから「あ」の一文字打ち込んだだけで、その一言が、送れなかった一言がそこにあって。
打ち込んだけど送れなかった一言がそこにあって。
会いたい、なんてまどろっこしいから、送る前に来てしまったのだけど。
うん、そう。
会いたかったのはオレもだったよ。
on tiptoe : 爪先で、そっと注意深く;大いに期待して