黒子のバスケ

cry for the blue moon

人を好きになるということは汚くなっていくこと。
汚くなっていくということは抜けられなくなっていくということ。
抜けられなくなっていくということは後は唯沈んでいくしかないということ。

果たして。





男の嫉妬。
そう口にした笠松に黄瀬は薄目を開ける。何スか。男の嫉妬って醜いよりも、汚ねぇよな。……何スか。身を起こしてベッドの縁に腰掛ける人の背中に額を乗せた。
厚地のカーテンで月の光も街灯の明かりも差し込まず、それなのに酷く白が浮き上がって見える。墨を流したような部屋の中にぼんやりと、まるでそれは魂のようにふよふよと頼りない輪郭。だから指先で線を起こしていく。腰骨から脇腹、肉の隆起を右手で描き、細く締まった腕の稜線にまとわりつく闇を左手で拭い、凝った夜から清らかでしなやかな白を掬い出す。尚も絡み付かんとする泥のような静けさと冷たさと暗さを持つものから庇うように、腕の中に抱き込んだ。何かあったの。……何も、ねぇよ。それなら。何もないから考えんのかもしんねぇけど。センパイ?
「オレはお前とこうしてる自分が、時々凄く汚い人間に思える」
醜いでもずるいでも恥ずかしいでもみっともないでも卑しいでもなく。
「もう引き返すつもりなんて更々ねぇ自分が、何処までもお前を道連れにしようとしてる自分が、汚い人間に思える」
そんなことを、考えてただけだ、と。
その酷薄な告白を腕の中に閉じ込めたまま、黄瀬は眼を閉じて微笑した。何言ってるんスかセンパイ。……黄瀬? 汚くていいんスよ、オレに綺麗事なんか、いらないスよ。
「だからもっと、オレに汚くなっていいよ、オレに汚い部分見せていいよ。だからもっと、」
オレがアナタを汚すことも許して。
瞼の裏には、白濁した闇が広がっている。





人を好きになるということは汚くなっていくこと。
汚くなっていくということは抜けられなくなっていくということ。
抜けられなくなっていくということは後は唯沈んでいくしかないということ。



本望だ。





(とっくのとうに、もう)


cry for the moon:不可能なことを求める。ないものねだりをする。
blue moon:《口》極めて稀なこと、滅多にありえないこと。;非常な長期間。《俗》娼家。

(20110226)