黒子のバスケ

go ape over you

作品の一部にR-15程度の描写を含みます。
十五歳以下の方(義務教育未了の方)の閲覧はご遠慮下さい。


センパイとはエッチなことよりもエロいことしたいと思っちゃうんスよね、とのたまった口に、振り返ったこっちは開いた口が塞がらない。

「……はい?」
「何て言うか、エッチいことって要するに乳繰り合う程度のイメージなんスけど、エロいことってまぁ舐めたりしゃぶったり噛んだり揉んだり扱いたりこねたりっていうイメージじゃないスか」
「ち、乳繰り合うってお前……」
黄瀬の口から飛び出す言葉に面食らってしまって、自分の口からは言葉がろくすっぽ出てこない。
どうして部室でいきなりこんなことを言い始めたのか。早々に着替え終えた黄瀬はベンチに腰掛けていたが、まだ着替え途中だった笠松は手に取ったワイシャツを落としそうになった。
いくら二人きりになっているとはいえ、ついさっきまで厳しい練習を終えた部員達で一杯だったこの部屋はどうしたって汗臭くて、今し方黄瀬が口にした言葉からは太陽と冥王星並の隔たりがあった。乳繰り合うなんて言葉よく知っていたな、と思う余裕すらなくした。
そもそも、まず黄瀬という男の存在がこの部室とは太陽と土星くらいの距離があったのが、半年以上経った今ではその点に関しては大分慣れてきたので違和感は覚えない。
だが、それとこれとは話が別で。
外国製の高級な人形みたいに綺麗な顔で何でもないことのようにとんでもないことを口にする男は、絶句する自分に気付かないまま続ける。
「っていうか、センパイとエッチっていう言葉が何か合わないっていうか。エッチって可愛い感じするじゃないスか。甘くてふわふわした感じ。あ、いや、センパイ可愛くないって言ってるんじゃないスよ? 唯、――うん、オレ、あのときに関してはセンパイ可愛がりたいっていうより、喘がせたいとか苛めたいとかそっちの方が強くて。で、気持ちよくさせたいし、したいし、感じさせたいし感じたいし。ふわふわってのと正反対で、ぎりぎりまで見たいし行きたいっていう。だから多分それがエロいってのに繋がってんのかなぁって」
思うんスけど、どう思います? そう小首を傾げながら尋ねてくる黄瀬は、普段のふてぶてしさを潜ませ、どこかあどけなさすら感じさせた。
無邪気な子どものようなその姿に、きゅっと愛しい気持ちがこみ上げる。


はずがない。


「ってぇ――――っ!!!」
「何お前馬鹿なこと言ってんだ!!! 何か、そうか、今からオレ直々の特訓受けたいって、そういうことか!? いいぞなら行ってこいまず校庭百周行ってこい!! 終わるまでオレが見張っててやる、あぁ見張っててやる!! 終電のことは気にするな、お前は黙って二百周だ!!」
「増えてる、センパイ倍に増えてる!! ってか何でそんな怒り狂うんスか、オレそんなに悪いこと言いました!?」
「悪い悪くない以前の問題だ! 恥ずかしーんだよお前、何だよいきなりエッチだのエロいだの、お前もう本当ヤだ、最悪だ馬鹿野郎!!!!」
握りしめたワイシャツがしわくちゃになるのも構わずに、ベンチの黄瀬に殴る蹴るの暴行を加える。
痛い痛い止めて落ち着いて後顔だけは止めてと喚く黄瀬を無視して、顔面目がけて大きく振りかぶった右手は、しかし黄瀬を殴ることはなかった。
「――ね、落ち着いて?」
固めた拳は空を切り、剥き出しの背中に回された両腕にきゅっと力がこめられる。怒りに早鐘を打つ自身の心臓の真上に、優しくキスを落とされた。
「――あのね、センパイ。本当言うと、オレ、センパイにもうちょっと危機感を持ってもらいたいんスよね」
胸元から顔を上げて見つめてくる黄瀬の眼は、珍しく困っているようにも見えたし、何故か怒っているように見えた。
それが眉間に浅く刻まれた皺の所為だと気付き、どうしてそんな顔されなきゃならないんだと自分の眉間にも皺が寄った。
怒っているのはこっちだと言う代わりに強めに睨むと、黄瀬は一つ苦笑いを零した。
「センパイ、気付いてないみたいなんで言いますけど。……あのっスね、背中側の、パンツで隠れるか隠れないかの腰の部分とか、レッグスリーブでぎりぎり隠れる膝裏少し下の部分とか、に、痕、残ってるんスよ」
そんなとこに眼が行くのオレだけだろうから、他の人気付いてないでしょうけど、と続けられた言葉は耳に入っていなかった。

痕が残っている、と言った。
何の、なんて、言わずもがなだった。

「――っど、どの程度!? え、ちょ、どんくらいだよ、鏡、鏡寄越せ黄瀬!! ああああああ、もうガラスでもいい、窓、カ、カーテン開けろ、今直ぐ開けろマジかよ冗談だろうわああああ――っ!! 恥ずい、恥ずいにも程がある最悪だ清水どこだ飛び降りられる今ならいけるオレは飛べる……っ」
「ちょ、だから落ち着いてって、オレ以外気付いてないっスから、本当、オレ自分がそこに痕残したの覚えてるからなぞれるだけで、そんなにあからさまでもないから、落ち着いてセンパイ!!」
顔を真っ赤にして拘束する腕を解こうと四肢をじたばたさせる笠松を押さえ込もうと、黄瀬は強引にその腰を抱いて引き寄せ、自分を跨ぐように座らせた。
そうして片腕を背中に、もう片腕を腰に巻き付けられてしまえば笠松は身動きが取れなくなる。
それでも暫くは抵抗を試みたが結局観念して、未だ暴風雨直中の自身の心に無理矢理蓋をして黄瀬に尋ねる。
「――――お前、いつ気付いたんだよ、それ……」
真正面にある小綺麗な顔は、笠松が落ち着いたのを確認し、一つ安堵の息を吐いて言った。
「んっと、今日は、今ですけど」
「『今日は』って、何、オレそんな四六時中痕付けてんのかよ!? ってかお前はもっと早くそれをオレに言え!! いや、その前にそんな痕残すな、一切残すな、オレを無傷で終わらせろ!!」
思わぬ告白に目眩を起こしそうになる。仮にも主将であり一つの部をまとめあげる立場にある者として、あるまじき失態だ。
内心で自身の気の緩みを叱咤するとともに、自身の気付かない場所にそんな痕を残していた男を責めるように強く睨み付ける。
すると黄瀬は、予想外に唇を尖らせて無理っス、と短く笠松の言葉を拒否した。
「言ったでしょ、オレ。センパイとはエッチいことじゃなくて、エロいことしたいんだって。優しく甘くなんてやり方じゃ物足りないっス。触れるよりいれたいし、泣かせたいより喘がせてよがらせたいし。今もあんまり無防備に痕晒されちゃって思い出しちゃって、でも抑えなきゃだし。――本当ならオレ、もっと強く痕残したいのに、これでも諸々を抑えてるんスよ?」
子どものように拗ねる顔とは正反対に、男そのものの生々しさを隠そうともしない黄瀬の言葉に、笠松は反論する言葉を見失う。
その隙に黄瀬は笠松の左耳にそうと唇を寄せて、強引にねじ込んできた硬く尖らせた舌と、鼓膜を蕩かすような熱く甘い吐息に乗せて、もっとも生々しい欲を囁いた。

今だって、躰の外だけじゃなくて中にだって、もっと、センパイがオレなしじゃイけないくらいにして。
ゴムなんか付けないで、直接オレでいっぱいにして犯しまくって、中で出されてイくアンタを見たいのに。

「……――っ」

――一瞬、だった。
一瞬で、躰中の血液が沸騰した。
早鐘どころじゃない、弾切れを起こすことのない機関銃のようにずっと早く強く心臓がうるさくて、思考がその音に掻き消される。
直接的な言葉ではなく、普段とは全く色を変えた声に、
布越しに迷うことなくその場所に触れてきた指に、
一際強くなった汗のにおいに、
綺麗な顔にそぐわない、ぎらぎら滑る獣欲に満ちた眼に。

一瞬で、黄瀬の欲望に飲まれた。
一瞬で、黄瀬への欲望を、掻き立てられた。

「――き、せ」
たった二つの音を紡ぐだけなのに。それだけなのに声が震え、肩に置いた指も震えた。
その様を解っていないはずがないだろうに、黄瀬は先程の意趣返しのつもりか、素知らぬ顔で嘯いた。
「――どうしたの、センパイ?」
どうしたもへったくれもあるかと普段だったら言葉と同時に出るはずの手も、今は黄瀬に縋るのに精一杯でどうしようもない。
ちょっと待て自分と必死に自制する心があるのに、言葉と躰とはそこから切り離されて勝手に動いてしまう。
上半身裸で黄瀬に跨っていることを意識してしまえば、更に歯止めが利かなくなった。
「黄瀬」
指先に力がこもる。
触れ合っている箇所全部からじわじわ熱が漏れているような気がしたが、それでもいいと思考が全部欲に塗れていく。
そうして近付いて、触れて、絡ませた舌が溶かされる頃には、まともな思考力も溶かされていた。

「――ね、センパイ。センパイは、オレとどういうことしたい?」

エッチなこと? それとも、エロいこと?

聞くまでもないことに、言葉で返すまでもない。
ねだるようにピアスごと左の耳朶を食んだのが答えだ。





(尾のないサルにでも何にでもなってやる!)


go ape over you:《俗》凄く夢中になる。異常に興奮する。

(20110124~5)