Don't chicken out.
「――そういや昨日の地震、結構でかかったよなぁ」
部活終わり、すっかり暗くなった駅までの道をレギュラー五人で歩いている途中に、小堀がそんなことを口にした。
「ぐらって大きいのきたときとか、やっぱ身が竦むんだよなオレ」
「あ、オレもそーよ。一瞬で全身の毛穴開くっつうの? オレも動物だったんだなぁとか思っちゃうね。本能全開だもんよ」
小堀の後を引き継いで森山、その後に早川が「オ(レ)、丁度風(呂)で解ンなかったっス」と続く。
「そういや地震って縦揺(れ)と横揺(れ)があ(る)んすよね、この間地学の授業で習ったっす」
「たて……ゆ?」
最後尾を歩きながら先輩陣の話を聞いていた黄瀬は、たてゆとよこゆって何だと一瞬理解が追いつかなかった。そんな黄瀬をよそに、あーそういや習ったな、と隣の笠松が視線を斜め上に飛ばした。
「突き上げるタイプの縦揺れより左右にずれる横揺れの方が、家具の倒壊とかに気をつけなきゃなんないとかやったわ。だから最初の揺れでそれを判断して動けばいいとか理系の奴がしたり顔で言ってた」
それ結構ハイレベルだと思うんだけどさぁと笑う笠松を、森山がちょいちょいと肘で小突く。
「したり顔ってお前だってわりかし理系じゃんか。あー、でも縦揺れと横揺れってあれか、遊園地のフリーフォールかジェットコースターかって話に近いんじゃね?」
「うーん、そうかなぁ。最近ってか、高校入ってから遊園地とかろくに行ってないからなぁ」
よく解らないなと苦笑する小堀に、なら今度春休み行こうぜ、遊園地巡りしようぜと盛り上がった森山に「オ(レ)も行きたいっす!」と早川が挙手する。笠松は遊園地巡りって何だよ、泊まり決定かよと苦笑しつつも、満更でもない様子でオレ富士急ハイランド行きたいと口にした。
「あー、でも黄瀬いると大変かぁ。行く先々で騒がれたら大変だな」
「……へ?」
「だからそこは特殊メイクだろ。顔面崩壊フランケン的メイクすれば逆に道空けてくれて乗り物乗りやすいかもしんないぞ?」
「二日目どうすんだよ、誰がメイクすんだよ」
「二日目はいっそ包帯巻いて透明人間のようにすればいい話なのだ。だ」
「オ(レ)巻きます!」
「春だから……まぁぎりぎり蒸れたりはない……か?」
「え、え?」
「最終手段で黄瀬に客引きつけさせてオレらは快適アトラクションでもいい」
「や、流石にそれは黄瀬可哀想だろ」
この一年、散々女生徒に囲まれ続けたその陰で、黄瀬が何かと苦労していることを知っている。
女生徒に群がられる姿に憧れや羨望を抱いたのは本当に最初だけで、後はもう唯大変だなとしか思えなくなっていったのは、恐らく海常バスケ部全員の総意だろう。
それを汲んだ上での小堀の的確な突っ込みに、笠松と早川の二人がうんうんと頷く。だが、森山はきっと眦を吊り上げて反論した。
「何処がだよ! いいか、女の子に囲まれてんだぞ、正真正銘のハーレムだぞ!? 羨ましいと思いこそすれ、哀れむ必要皆無だ! あ、想像しただけで何かイラっときた。黄瀬ちょっと殴らせろ」
「何ジャイアン化してんだよ!」
「……って、あの、ちょっといースか?」
笠松から肩に一撃を食らい黙した森山を後目に、そこで黄瀬は漸くまともに口を挟んだ。ちょっと背を丸め、上目遣いになっているその様は、主人にお伺いを立てる犬を彷彿させた。
「何だよ黄瀬」
「あの、そのスね、――オレも、いいんスか?」
一緒に行って、と恐る恐る口にした金髪長躯の派手な男を、彼を除く四人は揃ってまじまじと眺めてから――各々ばらばらの反応をした。
「え、や――そうか、スケジュールとか色々あるもんな、部活と仕事と。うーん、やっぱり一泊やめて日帰りの方がいいか?」
「おお、何か今オレ黄瀬を可愛く思った自分が憎い……っ。何だ、お姉様の気分だぞおい。さてはお前、そうやっって年上食ってきたな!? やっぱり殴らせ――っ痛ぇ!!」
「むし(ろ)断(る)気でいたらシバく!!」
「――ま、そういうこった」
お前も最初から勘定に入ってんだよ、バーカ。
三人の言葉を引き継ぐ形で笠松が黄瀬を見上げた。それと同時にぽんと軽く胸に拳を当てられ、黄瀬は反射的に顎を引いて視線を僅かに下げる。
見上げてくる笠松は、普段の勤勉実直な主将と言うよりも、爛漫なガキ大将のと言った方がしっくりくるような眼で屈託なく笑った。
「予定、空けとけよ」
「――っス!」
その言葉を飲み込んだ一拍の後、大きく頷いた黄瀬もまた、嬉しさを隠そうともしない満面の笑顔だった。
(何を今更言っているんだか!)
Don't chicken out!
Don't chicken out.:怖気づくな。