黒子のバスケ

like a dog with two tails

好きなんだから仕方がないじゃないスかと開き直る犬ほど面倒で厄介で腹立たしいものはないというのに、今自分の真後ろに立つそれはまさしくその開き直った犬だったのでどうしてくれようか。笠松は暫し拳を硬くしたまま動きを止めた。
「好きなモンは、好きなんスよ。そこは譲れないっス」
「オレが譲れって言ってもか」
「センパイが言うなら尚更っス」
後頭部にぐりぐりと額を押し当てられ、言葉よりも強く抱き締める腕に力が込められる。だから笠松は一つ溜息を零した。
「我儘な奴は嫌いだ」
「恋する男の正当な権利っス」
で、恋する男がその恋を成就させたご褒美っス。
ゆっくりと下腹に下りた両手は緩く組み直されて、持ち上げるように引き寄せられる。ズボン越しに、まるで黄瀬の熱を後ろに押し当てられるような形になって、笠松は軽く眉根を寄せた。
部活終わりに部屋を訪ねた。玄関の扉を閉じた次の瞬間にはこの状態になっていた。疲れ切った躰を更に疲れさせようとする男に向かって離せと言った。それだけだった。
それなのに。
「今の言葉はどこにかかってるんだよ」
「全部に」
一つ止めさせようとしただけなのに、いつの間にか全部についての話になっている。
そのおかしさに気付かないはずがなく、自称・恋する男にその点を指摘してもよかった。
だが、笠松は無言のまま首を傾げるようにして後頭部の重みから左に頭を逃した。そしてそのまま大きく咽喉を仰け反らせ、視界に入った真っ青なリングのピアスに細く熱い息を吹きかけた。
「――ぅっ」
突然の出来事に力の抜けた一瞬を突いて、するり長く逞しい腕の檻から脱出する。
少し距離を開けて向き直れば、そこには、あ、と口を半開きにしたままの情けない顔。年下の恋人に向かって、笠松は吹き出す代わりに左の口角をにやりと吊り上げた。
「まだまだ隙だらけだな、お前」
「――っあんな不意打ち卑怯っス!!」
「お互い様だろ。いきなり玄関先で抱き着いてきやがって。ベッドまで待てよ」
「……え、」
「そこはオレも同じだって話だ」
取り敢えずシャワー借りたいんだけど。
いいか、と続けようとした言葉は、千切れんばかりに尻尾を振って飛び付いてきた犬の所為で最後まで言えなかった。





(先ず「待て」を覚えろ!)


like a dog with two tails:大喜びで、喜色満面で、有頂天になって

(20110120)