魔人探偵脳噛ネウロ

偶発性必然の問題


何も世界が全て平和であったらいいとは思わない


私は期待していたんです、比喩ではなく、貴女に一縷の望みを託していたと言っても過言ではない、だから
――話した。そうそう口に出すような事ではない、事を。滅多に口に出さないままでいたら自然タブーになってしまった事を

でも、あの人は悲しいくらいに刑事になってしまった。ある意味法の番人としてこれ以上ない理想の容であの人は刑事です。でも公僕としてはこれ以上ない最悪の刑事です
――そうなってしまっていた事に、気付きたくなんかなかった

貴女が、あの人をこちらに留めてくれると思っていた。自分勝手だと思いながらも、私は貴女に期待した。あの人を留めてくれる存在になりうると
――餌にしたんだ、と。笛吹が去った後に自分にだけ聞こえるようにいやそんな事考えてもいなかったのだろうか、餌にしたのだとその唇が吐き出した言葉を信じられない思いで聞いた
――この人は、自分以外も巻き込める刑事だと。そういう存在にまで己を削り出していったのだと
――獣じみた本能と悪魔めいた知能と、その交配種。純粋なまでの刑事、だ

あの人は、こちら側に留まっている、今も、確かにこちら側にいる。でもそれは、あの人はあちら側には居ないという事の否定でしかないんです。それを、今回の事で思い知らされた
――こちら側とは、何か、正確な定義を持たないから、否定でしか測れない。そしてあの人は未だあちら側には居ない。それだけで

あの人は過去には囚われていない、そして、今にも未来にも、何にも囚われていない。あの人は、此処にいるのに何処にもいないんです

笹塚さんがいる事に慣れたのは偶然、そして笹塚さんがいなくなるのに慣れるのは必然だと、私は思っています

――……
――……あぁ、そうだ、この子は父親を、殺されている

でも、筑紫さんにとってはそうではなかったんですね
笹塚さんがいなくなった事に、本当は、慣れてなんかいなかったんですね

――慣れたと、思い込んでいただけで? 本当は?

それだけ、大切、だったんですか
そんなに大切だったのに、どうして私に託そうなんて思ったんですか。笹塚さんの妹さんに、私が似ていたって、それと関係あるんですか
だとしたら、私には無理です。私は、笹塚さんがいなくなったら悲しいし泣くだろうし何もしなかった自分を悔やむかもしれないけど、でもきっと慣れてしまう。笹塚さんがいない事に慣れてしまう。
それに、私自身がこっちに留まれるかなんて保証、ないんです
――私も、知ってしまった。筑紫さんと同じように、いなくなる事に慣れない存在に


役に立てないで、ごめんなさい
……いや、いいや、貴女が謝る事なんて何一つないんです。私が勝手に押し付けていただけなんですから。でも、一つ、いいですか。
貴女は、誰に引き摺られて?
……それは、秘密です
そうです、ね、そこまで探るなんて野暮でした。申し訳ありません


私思うんですよ。いなくなる事に慣れないなんて存在に出会えた事は、幸せなのかな、それとも不幸せなのかなって
私はそれを幸せだと思うから、たとえつらくても頭きても嫌になっても、そう簡単に手を離してやりません
強かですね、貴女は
筑紫さんに較べたら、まだまだです
褒め言葉として受け取っておきますよ


筑紫と弥子

(2006**)