魔人探偵脳噛ネウロ

彼ら二人哀れな生き物

苦しいよと胸押さえながら喘いだ彼は酸素の足りなくなった金魚のように面白い生き物にも見えたし舌を出して矢継ぎ早な呼吸を繰り返す犬のようにだらしなくも見えた。
浅い呼吸を繰り返し酸素を吸う量よりも吐き出す二酸化炭素の方が段々と割合増えていく、あぁもうすぐ過呼吸の状態に陥ってしまうなんて分析してみせる頭は惨酷なほど澄み渡り冴え渡り、それはまるで躰が馴染み同化した銀世界の様相と全く似ていて美しいほどだった。今なら最期に吐かれるか細い蜘蛛の糸の如き呼気の音さえ聞く事が出来るだろう、外界の事象を手繰り寄せるのではなく外界の事象が浸透圧の差で自然内側に流れ込んでくるような。差異を認めない平均化された白の日々とのバランスを取る為の調整機能の正常な働き。
苦しいよ、苦しい、繰り返されるその単語、それしか知らない鳥の言葉のようにも思えて籠の中の鳥が思い出されて、囚われの身なんて使い古された陳腐な一言を心の中で嘲笑った。彼の羽は未だ使い物にはならない、彼自身の重みによってその翼は未だ広げられない。でも、いつかは羽ばたいて籠から飛び立ってしまうのだろう、逃げてしまうのだろう。でも本当はずっと籠の中にいて欲しいから、だからその羽をもいでしまうのが一番なのかもしれない。けして飛び立てない、けして一人では生きてはいけない、そういう生き物にしてしまうのが自分にとっても彼にとっても一番なのだ。一枚一枚、羽根を毟りとり、痛みを和らげる為と偽ってはその筋肉に毒を打ち飛べないようにして。惨酷だ、惨酷だけれども最善に思えて、二人でなければ生きていけないというのは素晴らしい想像だった。狂喜が胸を締め付けた。狂わんばかりの悦びではなく、単純に純粋に狂った喜び。背徳の匂いにも似た、芳醇な熟れた果実を目の前にぶら下げられたら誰しもが食いつくだろう。毒か否かは食った後に考えればいい事。
大丈夫だよ大丈夫だユキ俺がいるからな、震える小さな生き物を抱き込み、そうしてその柔らかなふわりとした羽根を一枚優しく毟り取った。これは束縛ではなく庇護だと自己弁護した自分こそ、鎖に繋がれた哀れ狂犬。


早坂兄弟。幼少の頃

(20060711)