魔人探偵脳噛ネウロ

全てはきっと太陽の所為

橙に縁取られた雲は藍色、そのコントラストの美しさは笹塚の病室の窓から覗けた。十分に開けた視界、暑苦しくないいっそ清冽な橙は甘い朱鷺色と混ざり合い、雲の濃淡によって赤葡萄の豊潤さを想起させ、その中心に座する太陽は舌の上に乗せたら蕩けそうなオレンジのゼリーのようでもあった。たっぷりと潤った瑞々しい感触が口内に広がり、きゅっと咽喉を刺激する甘酸っぱささえ確かに認識する。
今にもその赤が滴り落ち、容が崩れてしまうのではないかと不安になってしまいそうなほどにぷるんと丸く柔らかそうで、突付いたらへこみ、離せばまた元に戻る、そういう弾力性を持っているように感じられた。実際太陽は劫火、業火に覆われた岩石に過ぎない。なのにどうしてこんなに潤って見えるのだろう。毒々しいほどに、喉が渇ききった時に見たら、さぞ美味そうに見えるだろうとすら思った。自らの咽喉から躰から水分を奪い去った張本人なのに、それでもその潤沢な光を見たらたまらず欲してしまうだろう、人を惑わす存在。
この観測しうる限り最大の恒星がなければ存在すらしていなかった人間という種族のくせに、なんて美味そうなんだと思った自分は大した不敬だ。一人自嘲の笑みを浮かべる。一日の行動を制限する、体の機能も制限する、何もかもを縛っているものにたいして。大した不敬だ。
夕に沈み闇が落ちてきた部屋の中、ふと異邦人を思った。人を殺した理由を太陽の所為にした男は何が間違っていたのだろう。不条理小説と謳われるそれ。こんなにも人は太陽に影響され支配されているのに。太陽がなければ生きている事すら出来ないのに。自らの行動を制限するものに責を負わせるのはそんなにも不条理な事なのだろうか。
応えは欲していなかった。


絵石家家事件後入院笹塚

(20060711)