魔人探偵脳噛ネウロ

艮の目 虫の角 その化け物の名

せいぜい噛まれて狂犬病にならないようにするんだな。
そんな口汚い言葉を吐かれても反論できない自分に腸が煮えくり返っていた。
お前らに何が解る? あいつの何が解る?
こんなにも人の腹は熱いものを孕める事を久しぶりに思い出し、呼吸は腹に押し出されるようにしかできなかった。心臓ではなく腹が血液を送り出すポンプになっているかのようだ。動きの止まった心臓は、未だ冷えきっている。
この心臓が動きを止めてどれくらい経ったのだろう。いや、心臓だけではない、今さっきまで、確かにこの躰は生きてはいても活きてはいなかった。随分前に凍らせてしまった心は、今少しずつ溶けている。細胞が活き始めている。眠っていた細胞までも、一斉に目覚め動き始めていた。芽吹いた感情なんて可愛いものではなく、それは抑圧されてきた感情の蜂起だった。自分達を力任せに押し留めてきたものに対して、切り裂く鋭さ、薙ぎ倒す強さ、押し潰す重さ、確かな実体を伴って笛吹の内面を荒らし回った。強奪されていく常識は、その実笛吹がずっと捨て去りたかったもので。
笹塚の何が解る、笹塚の何を知ろうとしている、何も知ろうとしていないくせに!


猛るばかりの心の片隅に、自分だって本当は何一つ解ってはいないのだという事実を置き去りに。


笛吹の話

(20060611)