乾いた涙を舌で辿る
涙に濡れた眼を瞼で覆えば、何処までも白い闇が広がっていた。瞼の裏にすうっと一筆で書かれたように躊躇いのない一直線。紙のような薄っぺらさで、それは陰影も伴わずに何処までも白かった。遠近感など解らないようで、でもそれは閉じた瞼、広がる視界の範囲内で果てを持っていなかった。何処までも無情で非情な白だった。絶望の色でもあった。絶望は黒でも希望は白でもない。一点の曇りも澱みもない非情。あぁ、今果てを知らないけれどもこの先に見えてくる現れてくるだろう果てを知っているから、この白を非情の白だと思うのだ。
涙が乾いて頬の表面がかさついていた。少し筋肉を動かせば、かぴと引き攣る音がした。目元から頬、顎を伝った涙はまるで糊で、塗られた跡が薄く剥がれそうな気もした。皆様ご覧下さい、これが家族を殺された男が流した涙の乾いた跡です。糊をプラスシックの下敷きに塗りつけて乾いたものを剥がしたのように、薄くぴらぴらしたものにでも見えるだろう。どんな風に跡に残っているだろうか。鏡を見れば解るだろう、しかし鏡のある場所にまで行く事が億劫で、どうせ誰にも会わないのだから気にする事もない。
流れた涙は顎を伝って胸元を濡らし、そこもまた乾いてかさついていた。涙が辿った跡が乾いて、流す前よりも一層乾いている事が、どうしてだかおかしくて口の端を歪めた。頬の表面がぴきりと割れた。
事件後