ストイシスム線上を歌う猫
作品の一部にR-15程度の描写を含みます。
十五歳以下の方(義務教育未了の方)の閲覧はご遠慮下さい。
今月はもう来ないと思っていたものが、きた。浅い赤で染められた下着を見つめた。ひんやりと湿った冷たさが柔らかなそこに触れた時に、もしかしたらとは思った。急いで学校のトイレに入り、個室、扉を閉め鍵を掛けたそのままで、便器にも座らずに扉に寄りかかりスカートをたくし上げ下着を引き下ろし、そうして染み広がった赤を見つけた。
前から数え、今月始まる日に来なかった。数日くらいのずれはある、ナプキンを付けるのは続けたが、それが一週間過ぎ、二週間過ぎ、流石にもう来ないとナプキンを付けるのを止めた日に来た。
(最近色んなのが狂ってたからかな、) 便器に腰かけ、弥子は駆け込む前にスカートに突っ込んておいたポーチから一つ――最初から一つしか入っていなかったのだが――ナプキンを取り出した。まだ濡れたばかりの下着をトイレットペーパーで軽く叩いて血を抜き、ベリ、ナプキンの包みを破いて付ける。
(嫌になる)
股の間をつぅと垂れ落ちる赤を見る。柔らかな色をした茂みを伝い、玉になった浅黒い赤が自らの重みに耐え切れずに、ぷつっと切れ、その切れ方に反してすとんと音もなく落ちた。便器を滑るように水に溶けながら底に溜まるのを目で追った。
(嫌になる、)
切れた先はまたぷくりと玉になり、下に落ちていきながら膨らんでいく。赤黒く玉は澱んでぐるりと滑った。
(こんなに簡単に、)
血は流れるのに。体内から流れ出るのに。要らないものと共に。脳裡に血の海の中で死んでいた父、口から噴き出すように血を吐いて絶命した男を浮かべた。血が外に流れすぎて、彼らは死んだ。自分は、女は、周期的に体内から血を捨てるように流し出す。流れ出る全てが血ではなく、他の体液も混ざっているのだと知った時も、それでも赤い液体は血以外の何ものでもなく、今更ながらにこんなに血を流しても死なない女の自分を不思議に思った。痛みすらなく――生理痛とは無縁だったので――、胎内のもう役に立たないと烙印を押された細胞が股から排出される。死んだ細胞が、生きている躰から赤い波に乗って流し出される。眼に見える形の細胞の死骸。どくんと下腹の内側が蠢いて、また不要物が赤い液体と共に音もなく滴った。ゆっくりと既に垂れている一筋の赤の道を辿り、玉は一回り、二回り膨らみ、耐え切れずにぼとん、切れるように垂直落下、すっと便器の水に落ちた赤はその身を解きながら便器の少し赤くなっていた水と混ざった。ぴちゃんととろみのないさらさらした浅い色の赤が撥ねて、赤い絵の具を含ませた筆の先端を、色を薄める為の水が入った容器にちょんと付けた事を思い出す。水にくるくる踊るように溶けた赤。
(こんなに簡単に、血なんか出てしまうのに)
それで、死ぬ人もある。
(父さんも、)
死んだ。
俯いた視線の先、垂直に垂れたとろりとして見える一筋が、動脈に詰まってできた瘤のような新たな玉をつくっていた。
恐らく最後だろう弥子独白