従順な娼婦と気侭な聖女
作品の一部にR-15程度の描写を含みます。
十五歳以下の方(義務教育未了の方)の閲覧はご遠慮下さい。
血の臭いがすると鼻を彼女の腹辺りに摺り寄せながら言えば、笹塚さんそれセクハラですよと耳にふわりと丸い声が触れた。たくさんの空気を含んで空から羽根がふるふる落ちてくるように心地よい甘さ。耳朶に馴染んで鼓膜の奥に滲みこむ声。砂に水が滲みこむように吸収される。
あぁ、そうか。朝の鈍い頭を働かせるまでもなく察して、そりゃ悪かった、血の巡りの悪い指先を、足の付け根に向かって張り詰めた若い腿の上に滑るように走らせた。引っ掛かりもなく、肌理の細かさが感覚のない指でも解る。
夏服のスカートは薄地、ともすれば下の肌が透けて見えそうで、唯でさえ短いのに、そんなにサービスしなくてもいいんじゃないと、滑らかな少女の肌と対照的な、乾ききってかさつく指をスカートの奥に潜り込ませた。もしかしたら自分の乾き硬くなった皮膚がこの柔肌に引っ掻き傷でも創ってしまうのではないかと思いつつも、あんまり滑らかに滑るので砂漠の砂でもさらさら撫でているようにすら思えた。摩擦が起こらない。絹のようにしっとりと手に吸い付いて馴染むというべきなのだろうが、生憎それを感じられるほどには手先の感覚がなかった。スカート、これ以上短くする気なの。言外に試すような口振りを置き去りにして、それでも自分でも年寄り臭い事を言ったと直後思ったが、少女は見せられる内が花ですからと血色の良い薔薇色の唇を綺麗な笑みの形にしてみせた。まぁそういう言い方もあるね、瞼を閉じて柔らかな腹部に頭を沈ませる。
温かな、それはまさしく肉の柔らかさで、ふにりと食い込む感触。耳を押し付ければ薄い皮膚の下を通る、大動脈でもないのに太い血の音が、びくんびくんと脈打つのが伝わった。生きている音でもあり、彼女の胎内では今まさに死んでいるものがあるのだと思うと面白くもあった。男とは違う女の躰。瞼の裏に先日躰を重ねたばかりの男の像を鮮明に描いて、直線で構成されているその躰を思い出した。何てこの曲線で構成されている、角のない性とかけ離れている事か。堅い骨同士をぶつけ合い硬い筋肉を引き千切り合う、相手の咽喉仏を狙い、食い破る事だけを考えている共食いのようなセックスとは、既に次元が異なるようにも思えた。
今日は、やめておくよ。一言発し、そのまま意志のなさを表明するべく服の下を潜らせていた手を引っ込め、上半身を起こした。眼の前の少女は鳥の雛のように少し首を傾げて、唇だけでどうして、その言葉をつくった。僅かに薄紅色に染められた頬、濡れて光る鳶の瞳が未だ放したくないのにと伝えていた。
無心で餌をねだる生まれたてのようなその雛は、それでも既に大人になりかけていて、躰は一足早くもう既に成熟している。子供を産める躰の子供、水一滴、血の一滴だけで崩れてしまうような不安定な均衡。その均衡を壊すのは、壊してしまうのは自分なのだろうか。
駄々を捏ねる子をあやすように、片手で弥子の頭を抱き寄せ、煙草の煙に乾いた唇を瑞々しい少女のそれに重ねた。咽喉の奥に滲み込む甘い味がして、触れた箇所から硬くなった砂がぼろぼろ崩れるように自分も壊れそうだった。
特別をつくらない人間の話