沙に描かれた赤い蛇
不毛の大地、夜の沙漠を彷彿させた。
水が少なく、からからに乾涸びた大地に走る亀裂すら、その肌は忠実に再現しているかのようだった。
「お前は気にしちゃいないんだろうがな、手入れくらいはしとけ」
裏通り、暴対法や風俗法に引っ掛かる系列の店ばかりが立ち並び、そしてもっと活気付く時間帯。
喧騒の只中から少し外れた街の隙間のような路地裏に二人は身を潜めていた。
男が話しかけた先の青年は、緩慢な動作で自分の手を見た。
水分を絞りつくされた皮膚の表面は、血の気を失った青。
ぐっと握り拳をつくっただけでぴきり、裂け目が一つできた。
僅かに覗く断面、赤い肉が見えて、血も少しだけ、申し訳ない程度に滲んだ。
まるで未だ血は流れているからお前は生きているんだと、躰に言われたようなような気がして、血を流している当人は口だけで哂った。
寒さで痛覚は麻痺している、それでも流れ出る血そのものが沁みて刺さるのは解った。
すっと眼の前の、ブロック塀に凭れる男に握った拳を突き出す。
血がつぅと一筋流れたが、それも僅かだった。
まるで蛇の赤い舌のように、ちろりと肉の裂け目から覗いていた。
「……舐める?」
「――お前はそういうの嫌いだと思ってたんだけどな、」
突き出した拳、青い血管、硬い骨がごつりと浮き出た手首を掴まれると、男の口元に引き寄せられ、軽く裂け目に唇が触れた。
薄く半開きにした口から舌先だけで血を舐め取られ、呆気無く離れた唇に「それだけ……」 甘えるような、実際は面倒で眠いだけの声で問えば、一拍。
強い有無を言わせない力で掴まれたままの手首は一気に引っ張られ、そのまま気付けば躰の位置が反転していた。
「……お前、何をしてきた」
堅く荒い砂目の塀に背中は押し付けられ、後頭部がざり、と塀を掻いた。
覆い被さる男は、片膝で脚を割って強引に躰を押し付けてくる。
覗き込んでくる眼は、この暗い中でも鈍く光る、澱みながらも貫く強さで、抱いている疑惑を隠そうともしなかった。
丁度股間を擦られるように膝を押し付けられながら、何もしちゃいないさ、一言を吐き出すのも億劫で短く返した。「何もしちゃいない」
酷く説得力に欠けると自身思いながらも、男の視線を遮るように眼を閉じた。
暫く執拗に探る視線が絡み付いていたが、ふっと間近に男の煙草の臭いが感じられて、当然の成り行きのように、裂けて瘡蓋が出来かかっている唇に男の煙草の味が押し付けられた。
ねっとりと舌を弄られながら、久方ぶりに見た年下の男の姿を瞼の裏でなぞった。
失踪時。