魔人探偵脳噛ネウロ

ささやかな静けさに走る戦慄の詩を

の骨、本当に綺麗に取るよなぁ。感心したように筑紫の手元、身の白さが眩しい秋刀魚を凝視する。この秋初めての秋刀魚、学校の安い定食にしては身の締まった上物。
秋刀魚の骨くらいなら取らなくてもいいかなとは思うんですが、区切って筑紫は苦笑いをした。「……以前喉に引っかかってしまって、大変だったので、」
念には念を、ってヤツか。続きを引き受け、笹塚は「なぁ筑紫、」 にたり笑って後輩の前の魚の皿を自分のほうに引き寄せ、代わりに自分の皿を後輩の方へ押し出し。「……笹塚さん?」「解ってるくせに」 尚笑顔を崩さない年上の男の、余りに子供っぽい行動に一つ嘆息する。「……言ってくれれば、取りますから、」
そうやって黙って取り替えるのは無しにして下さい。呆れる筑紫に、悪ぃ悪ぃ、言いながら秋刀魚を――筑紫が今し方骨を取ったばかりの――食べ始めてしまう。
変な所で子供っぽいんですから。呟くも、その時折みせる子供っぽさが好きなのもまた事実で。「俺は笹塚さんに甘いんですかね、」 美味そうに秋刀魚を食べる男の箸使いを綺麗だと思いながら呟いた。


じるも信じないも全ては自分自身に託されている。選択肢は二つに一つ。
どうする、笛吹? もう相当財布の中身も寂しいんじゃないか? 揶揄する声に、「うるさいっ、集中させろ!!」 怒鳴り返して黙らせる。丁か半か。二分の一。今現在の所持金は掏りに掏られて三千弱。一々見栄を張って高く賭ける自分をバカだと思っても、笹塚に勝って、見下し、声高らかに馬鹿にしてやりたい願望の方が大きい。笹塚は先刻笛吹に言われたままに黙り、時々ふっと視線を寄越してはさいころを掌の上で遊ばせ。
「……――丁、だ」 丁に有り金全て賭けてやる。意を決した笛吹の言葉に、「それじゃあ俺は半で」 俺も有り金全部賭けるよ、今日巻き上げたお前の金も全部含めて。掌の中のさいころをぐっと握り締め。「――振るぞ、」 笹塚の手が左右に小刻みに揺れ。――カラカランッ。
台の上に転がったさいころの目は。


きといえば、好きなんだろうな。
要領を得ない答えに、「そうじゃなくて、好きか嫌いかくらいははっきりさせて下さい」 いつになく強気に出る筑紫の、自分に覆い被さっていた躰を押し退けて、「難しい事をあっさり言うなよ」 そんな簡単に言えるモンだったらとっくに言ってる、笹塚は後頭部を掻いた。「――何をそんなに焦ってるんだよ、筑紫、」
「――貴方が」、貴方が焦らせるような態度を取るからでしょう。その言葉が、如何に自分勝手かという事を解っていたけれど。


的関心が低そうに見えるって、ある意味得なんじゃないだろうか。朝、低血圧の笹塚がのらりのろりと服を身に着けていく様を見て、そんな事を思う。
(……あ、)
ベッドの縁から立ち上がり、笹塚の許に近付く。「ボタン、」
掛け違えています。外して掛け直してやれば、サンキュ、矢張り未だにぼんやりとした焦点の合っていない声で礼を言われた。眠気が抜け切っていない微睡んだ視線は、ボタンを掛け直した指に注がれた。その指の動きに合わせて視線も動く。
「未だ寝ててもいいと思いますよ、一限はないんでしょう?」 少しばかり寝癖のついた髪を梳いて整えるように撫ぜる。ん、そうなんだけどな……。筑紫の胸元に凭れ掛るようにして躰を預け、髪を梳く指を軽い力で押さえてそのまま自らの口元に持っていく。
「お前の指、好きなんだよなぁ……」 文章に全く脈絡がない事に、恐らく自身は気付いていないのだろう。人差し指、中指、薬指、小指。軽く唇を触れ合わせては、口を小さく開いて尖らせた舌先で突付く。濡れた舌の生温さが、指先から全身に広がっていく。
「――笹塚さん……?」 親指に至っては、触れるだけでなく笹塚の口腔内に誘われ、舌全体で舐られ、時々歯を立てられ。「笹塚さん……っ」
止めて下さい、そう言おうとしたが、同時に止めて欲しくもなかった。伏せた眼で他の一切に関心を寄せず、唯赤ん坊が母親の乳を吸うように自分の指を口に含んで舐める男は、どうしようもなく、それこそ普段性的な匂いを感じさせないだけに、より一層いやらしく見えた。


こが、いいんですか」
「んー、色々考えてみた結果な、面倒になってさ」
「というか、そこでいいんですか」
「何、もっと高い店でいいのか?」
「いえ、そういうわけでもないんですが、もっとふっかけられるかと思ったので」
「俺がそんなに意地悪な男に見えるか? 心外だな、筑紫」
「……意地悪というよりも、性悪な感じですかね」
「あ、傷ついた。今のは傷ついた。やっぱ高いとこにするか、」
「……すみません」
「んじゃ、誠意を見せて貰おう。うん、そうしよう」
「……何、ですか」
「週末な、家庭教師のバイト入れててさ、朝から頼むって言われてんだけど……」
「飯付きで起こせって言うんですね」
「ご名答。よろしく頼める?」
「疑問形にしてたって、最初から頼む気でしょう」
「もの解りのいい後輩を持つといいなー」


あれ、もしかしなくても、筑紫学生時代笹塚の事「笹塚先輩」呼びですか。そうですか。
どうしましょう。――本当にな

(20051118)