魔人探偵脳噛ネウロ

黙する其の手に愛を乗せ

作品の一部にR-15程度の描写を含みます。
十五歳以下の方(義務教育未了の方)の閲覧はご遠慮下さい。


そんな事までしなくてもいいよ、筑紫。
濡れたタオルを片手に、汗と精液で汚れた腹部を拭おうとした後輩を制した。躰の節々が軋み、直後にはどうしても動けない自分をおいて、既にシャワーを浴びて下も穿いている男に――そもそも自分が先に浴びて来いと言ったのだけれども――そこまでやられるのはどうにも気まずかった。夏でもないのにやたらと汗ばんだ躰を鬱陶しく思いながら、笹塚は言った。「シャワー浴びて、窓開ければ済む話だろ?」
腹にあてられた、散々自分を弄り回していた筋張った手を退ける。その指が一瞬、名残惜しそうに強く下腹部を押したが、笹塚は無視した。重く怠い腰を上げて、先ほどまで籠もっていたセックスの後の特有の濃い空気を外に逃がす為に窓際に行く。その間にも筑紫の舐めるような視線を背中に感じて、未だに行為が続いているような錯覚を覚えた。男を受け入れていた箇所、内側にずぐんと疼くものを感じ――もう抜かれているというのに――、それら一切を振り払うようにがらりと窓を開ければ、密度の濃い空気と入れ替わりに侵入してきた秋半ばの夜風が、何一つ身に着けていない躰には沁みた。
「汗も拭かないで」
風邪、引きますよ。後ろから抱き込まれるようにしてシャツを肩にかけられ、その時晒したままの背中に筑紫の肌の熱さを感じ、ずぐん、また内部が疼いた。先刻繋がっていた時より幾分冷えてはいるが、それでも尚熱く、自分の体温との差が気持ち良くも感じられた。
「……こんな事くらいで風邪引くような柔な奴は、刑事なんてやってられないさ」 僅かな自嘲の響きを持った言葉に、そうかもしれませんが、筑紫は片腕で笹塚の剥き出しの肩を抱え言った。「夜とはいえ公衆に裸晒しているのも公僕としてまずいでしょうに」
半ば強引に窓から引き離し、空いた片方の手で窓も閉める。「元々体温が低いんですから、余計に下げるような真似をしなくてもいいと思いますよ」
笹塚はそのままベッドに戻され、とすん、軽く押されただけでベッドに沈んだその躰を筑紫は再度丁寧に拭き始める。ベッドの上に片膝を乗せて、浮いた骨をなぞるように拭っていく筑紫の手の動きを眼だけで追いながら、今度は抗わずに為されるがままだった。繊細とは正反対、ざっくばらんに動く指はそれでも汚れを残す事なく躰を綺麗にしていく。取り立てて美しいというわけでもないが、筑紫の長身に見合うだけの長く、セックスの時には酷く無骨になる指が動くのを見るのは好きだった。
「――筑紫、そこは自分でやるからいいよ……ってかシャワー浴びてくるから、もう……」 やらなくていい。下腹部のさらに下の方、性器間際に手が伸びる寸前に上半身を起こし、筑紫の手首を掴んで止める。「あんまり世話が過ぎるのもどうかと思うけど、筑紫」 女に対しての行動を、そのまま俺にして貰っても困るんだけど。
笹塚の渇いた皮肉に、「……別に、誰にでも対して同じ事をするわけではありませんよ」 筑紫も淡々と返しながら、それでも逆らわずにベッドから膝を除け。
「――っつぅっ」 ――躰が離れる、寸前、不意打ちで一気に間を詰め、笹塚の細い顎を片手で乱暴に掴み唇を押し付けるようにして合わせた。がちり、歯が、ぶつかり。「……何、いきなり」 眼の前の男の唇に少しばかりの血を認め、同時に自分の口の中にも鉄の味を感じた。口内を一舐めすれば、すぐにその味は消えてしまった。
「筑紫、」
「――誰に対しても、なんて、本気で信じてるんですか」
笹塚さん。掴んだ顎を上に向かせ、筑紫は低い声で言った。「笹塚さん、」
真っ直ぐな視線から眼を逸らす事も叶わず、逃げるように頭の片隅で早くシャワーを浴びて、何もかも洗い流したいのにと思った。


三十路笹塚だと思って下さいな
私に年齢制限は無理だ。これR-12でよかった

(20051118)