モノクロオムの恋
表情のない人間になってしまった笹塚を唯自分も表情なく見つめていた。
その躰は少し痩せたかのようにも感じられ、同時に一年前の彼はどれだけ均整の取れた躰の線だったのかをはっきりと覚えているようで忘れかけている自分に愕然とした。戯れといえども、薄い皮膚をなぞった指もなだらかに下る窪みを辿った舌も彼の形を忘れかけていた。それでいて記憶の中には確かに在る像。耳を舐め回した声。欲情した下肢の熱さ。忘れかけていたものと残ったもの、感覚的な混乱に戸惑う自分を表情に出さずに静かに心の中で震えた。心の中が、ではなく心の中の何かが、いつの間にか過去にしかけていた自分を非難するかのように震えて熱を発した。ずっと前に消えたと思っていた存在、火を失っても尚燻り続けて永らえていたそれ。
「……久し振り」
筑紫、と。表情のない、能面の白さで自分の名を呼んだ男は、過去で時を止めたまま、そのくせに決して過去には戻れない事を唯そこに在るだけで証明していた。自分と彼との間の隔たりに、泣きそうになった。
熱さえ忘れかけていたのに、今更どうして戻ってきたのかと怒鳴りたくもなって、勢い発しようと思った言葉は咽喉の奥で潰れ腕の中に年上の男を抱きこんだ。
やっぱり躰は細くなっていた。
失踪・そして帰還