草木萌動
山崎の返事は、いつも
「はいよっ」
である。
「はい」で区切れば良いものを、どうしてか「はいよっ」と威勢の良い返事をするのだ。
『真選組』となる前、田舎の道場の頃から、山崎はそうだった。
特段道場の人間がそのような返事をしていたわけでもなく、大体の輩は「はい」や「うす」といった体育会系だった。にもかかわらず、だ。
「俺って、そんなに時代劇好きだったのかなぁ」
うっかり八兵衛みたいな返事、俺しかしてないじゃないですか。
パシィッ、羽根を打ち返せば、沖田は「そんなん、俺が覚えてるわけねぇでしょう」、こちらも上手に返した。
「そうですよねー、っていうかそもそも沖田さんの方が年下ですもんねー」
「あぁ、でもそれに関する事なら一つ覚えてまさぁ」
「本当ですか?」
「年上の山崎は覚えてないんで?」
「……申し訳ないんですけど、全く」
ミントンしながら話し続けるのもなんだぃ、そう言って沖田は落ちてきた羽根を手で取る。そのまま屯所の縁側に腰を落ち着かせ、山崎もそれに倣った。
「いいかぃ山崎、えー……Once once upon a time...」
「え、何、何ですか今の!!?」
「話の腰を折るのは野暮ってもん、最近は昔話する時にこう言うのが流行ってるんでさぁ」
「いや、そんなん初めて聞いたから!!」
「俺はいつでも流行発信地、流行は乗るもんじゃねぇ、生み出してこそですぜ山崎ぃ。
これから流行る事間違いないって太木かずのこが言ってたんだから間違いないって俺の夢の中で」
「間違いだらけだよ、間違いだらけって言うか間違ってない方が明らかに少ないですよ今の発言!!!」
「んで、山崎の『はいよっ』が道場内でも珍しくて、近所のガキなんて山崎の事『もやしっこ』って莫迦にしてたから、何かにつけて真似する奴らが多かったんでさぁ」
「俺の発言オール無視ですか!!?」
「んで、山崎は山崎で莫迦にされてもこれまたへらへらへらりと笑ってたもんだから、ガキ共は皆でからかってた」
「……今明かされる俺の過去って、何だか俺可哀想なんですけど……今も俺発言無視されて悲しいんですけど……」
「まぁまぁ、黙って聞きなせぇ」
沖田曰く。
道場の周りは開けた土地で、そこでその日も山崎は近所の子供にからかわれていたそうだ。
子供等に囲まれた山崎が、中で稽古をしていた沖田にも見えたという。相も変わらずバカなガキ共がまた、同じ様に子供だった沖田は思ったらしい。
『やまざきぃ』
『さがるぅ』
そこで皆で一斉に『はいよっ』、返事をするという、どこが楽しいのか解らない単純な遊び。延々とそれを繰り返すだけの――そう、それは一応「遊び」と言われても納得が出来てしまうもので。
道場の人間も、またやってるよ、よく飽きないもんだな、そんな事を方々に言いながら稽古に打ち込んでいたという。
が、子供も飽きるのは当然である。
延々と同じ事を繰り返すのにも飽きたのか、子供等は頭を寄せ合い――当然山崎は除け者にして――、それから「それいいな!!」、声が上がった思うと、また山崎を囲った。
『やまざきぃ』
――また、始まった、誰かがそう言って笑い。
『さがるぅ』
――単純なもんだ、呆れた様な声が聞こえ、
『捨てられ子!!』
――道場のざわめきが、一拍遅れて、水を打った様に静かになった。
ばきぃっ
「『うるせぇんだよ、』、たった一言土方さんがそう言ったんでさぁ」
手にしてた木刀、折れて道場の床に突き刺さってて、けらりとした表情で沖田は言葉を続けた。
「何ていうか、もう殺気飛ばしまくりで」
「俺も流石に頭きたんで、道場の誰のもんだか判らねぇ赤褌、水に浸して結んで、奴ら目掛けて投げてやりました」
ジャストミート、顔にあたって笑えましたねぇアレは。
「……」
「あぁ、やっぱり気分良くなかったかぃ?」
こんな話、聞いてて気分の良いもんじゃねぇし、その沖田なりに気遣う様な態度と言葉に、「いいえ、」 山崎は首を振った。
「……でもその子供達も、随分とトラウマになったでしょうねぇ」
副長の殺気篭った眼、あれには俺未だに慣れませんよ。そう言えば、
「なら今度この沖田特製アイマスク、プレゼントしましょうかぃ?」
さっと、手品の様に常日頃沖田が愛用しているマスクが山崎の眼の前に現れ、山崎は眼を瞬いた。
「沖田さんは本当に手が早いですねー」
「それ意味違うから山崎言っときますがね」
じゃあ、続きやりましょうや、立ち上がった沖田の背中を見ながら、小さく、
「俺って愛されてんですねー」
知らなかった、漏らせば、「当たり前でしょう」、沖田が振り向く。その顔に、普段とは違う、さっぱりとして、裏のない笑みを浮かべていた。
「俺達真選組は家族なんでさぁ……土方さんはポチですがね、犬も家族の一員ってのが粋で」
「え、何か後ろに腹黒な言葉くっついてませんでしたか?」
「いいやいいや、空耳アワーですぜ山崎」
「そう言えば今晩のタモさん倶楽部、空耳アワー総集編ですよ、年に一度の空耳祭ですよ、見ないと!!!」
「……山崎、お前今日夜番じゃなかったですかぃ?」
「えぇーっ。だ、誰か代わってくれる人いないかな、今ビデオ壊れてるからなぁ……」
「真選組は家族でさぁ、お前の分もしっかり空耳しときますぜ。All for one, one for all」
「え、ちょ、本気で誰か代わり探そう、そうしよう俺……!!! とりあえず今はミントンの決着つけましょうね沖田さん、さぁ、さぁ!!!」
「へいへい」
真選組は本日も平和。