優しい束縛
とんでもなく絶望的なそれを、事もなげに笑って言い放ったソイツを、近藤さんはただ黙って抱き締めた。
何気なく、何の悪気もなく近藤さんが口にした、「退」って名前も珍しいよなぁ。稽古の合間に、縁側で休憩していた近藤さんと俺に、茶を運んできた山崎はそうですねぇ、ふふっ、小さく笑みを零して応えた。あんまり軽く柔らかい笑みで、お茶、温くならない内にどうぞ、その言葉の後に続けられた内容に、俺達は言葉を失った。
「どうやら、俺は忌み子だったみたいですから」
言霊を、願いを込めて、きっとこういう名前にしたんでしょうね。
早く、死んでくれと。
……かたん、盆が廊下に落ちた。
「、近藤、さん?」
山崎は眼を丸くし、何とか顔を上げようと近藤さんの懐で藻掻いていた。
ごそごそ、肩幅の広い近藤さんの中にすっぽり収まる、それでも小さな躰。他の同年代の奴等と比べれば、それは一目瞭然で。
薄い背中、狭い肩、細い腕に足。骨自体が細く、その上に張り付く肉の厚みも高が知れていて。軽さは、もしかしたら総悟と同じくらいかもしれない、そういう、小さく薄い躰。
「近藤、さん、」
近藤さんは何も言わずに、その小さな躰を抱き締め。誰にも渡さない、そう言っているかのような、強い、強い、抱き方で。
失念していたのだ。
山崎の笑顔は、幼い子供が生き延びる為に己の顔に貼り付けた、肉の仮面なのだという事を。
その微笑みの仮面は、いつ何時も削ぎ落とされる事が決してないという事を。
――俺は、知っていたのに。
「近藤さん、」
繰り返し、そう言う度に声が微かに震えていくのが解った。
近藤さん、近藤、さん
何も言わない、束縛にも近い強い力は抱擁と呼べるものであり。
その腕の中で山崎の躰がへらり、力なく笑うように揺れ、そうして、肩が震えだすのを俺はただ見ていた。
山崎は、笑いながら泣いていた。