この恋情が劣情に変わる前に
敢えてこの感情に名前をつけないでそうしてそのままにしておく事を、お前は暗にいつも非難する。
「土方さんはいつも辛そうでさぁ」
「――そりゃテメェがいつも俺の寝首掻こうとしているからだろうが!! 現に今も何だその肩に担いでるモンはあぁん!!!?」
「神輿でさぁ。これから祭があるんですぜ。真選組主催実行委員俺イベント名は土方さん血祭り」
「結局テメェ一人だけじゃねぇか!!! 俺を人柱にして何得るつもりだてめぇっ!!!」
「そりゃあ言わずもがな副長の座ですぜ。いつも言ってるじゃないですかぃ、ついにボケ始めましたかねぇ。それならそれでそりゃあ手間が省けていいや、現代の爺捨て山・ゴミ焼却場に連れて行ってやりますよ。ホラおいでペロ」
「誰がペロだこらあぁぁっ! 叩っ斬ってやるそこになおれぇぇっ!!!!」
――いつも通りの光景に局長も俺も素通りしてミントンを続ける。大丈夫、あれはじゃれているだけだ。命を懸けた、真剣上等随分と物騒で危なっかしくて傍迷惑極まりないじゃれあいではあるけれど。そう、だから大丈……
「ごぶふぉぉっっ」
「山崎テメェ邪魔だあぁぁっっ」
「全く、他の人間巻き込むなんて魔法律104564条傷害罪で冥王の晩餐の刑に処されちまいますぜぃオキョに」
「十二分に巻き込んでるお前に言われたかないわっっ。そもそもオキョって何だオキョって!! そりゃあムヒョのパクりかオイぃ!!! いやむしろ何だその物騒な番号はあああぁ!!!?」
104564
「トシ殺し」
「死ねえええぇっっ」
「ヒージーは血圧高いなぁ。イライラにはカルシウムですぜ。ほら空知牛乳、ビンであげまさぁ。太っ腹でしょう俺」
「誰がヒージーだ誰がっっ!!!」
「山崎大丈夫かオイ? いや、総悟は本当にトシと遊ぶのが好きだからなぁ。ちょっと休憩するか」
「いや、アレ遊んでないでしょ!!? どこをどう見たって死合いでしょ死合い!!!! アンタその究極のバカっぷりなら人生休憩した方がいいよリフレッシュ休暇とるべきだよ土筆テツヤのスロウライフ推奨するから!!!!」
「ホラ土方さん、山崎も『もう人生リタイアした方がいい』って言ってますぜ。俺が引導渡してあげまさぁ」
「後で首洗って待ってろ山崎いいぃぃっっ」
「いいいい言ってない言ってないですよ俺何も本当に副長ソレ違うから副長!!!!」
「いや、今日も一日快晴平和。良い事だなぁ」
「いやだから局……いやもういいよアンタ!! 一生それでいいよもう!!!」
――本当にいつも通りの光景で。だから沖田さんが副長に言った最初の言葉なんて、局長はきっと気にも留めていないのだろうけど。
それは決して局長が鈍いとか――実際鈍い面はあるけれど――そういう訳ではなく、沖田さんも副長も普段の様な会話に意識的に繋げたからだ。
『土方さんはいつも辛そうでさぁ』
それだけ。それだけが沖田さんが言いたかった事。聞きたかった事。
それに対しての答えを、副長は返さなかった。
いつも通り。いつも通りの応答をした。そうする事で、副長は沖田さんの言葉を避ける様にしていると気付いたのは、ここに来て監察の仕事をする様になってからだ。
ふとした瞬間に放られた沖田さんの言葉を、上手く受け取る事が――それに返す事が出来なかった副長を見て、気付いた。
『腹に溜め込むと躰に悪いですぜ』
『いい加減、辛いんじゃないですかぃ』
それだけの、何て事のない言葉に副長の息は止まった。
空気を伝わってきた、張り詰めた、けれども酷く無防備な副長の呼気で。
――俺は解ったのだ。
――辛い、そういう風には俺には見えなかった。「鬼の副長」と呼ばれる副長は、それでも当然の如く人間で、だから喜怒哀楽感情がある事も当然で。
拾われた頃は唯恐ろしくて哀しく見えた眼も、ある特定の人物の前でだけは和らぐ事を知って、そうして段々と彼という人間を知って。
どうしてだろう、俺には彼が辛いというよりも、痛いのを必死に我慢している子供の様に見えた。
痛いのを、決して周囲に――局長に悟られない様に必死に。ただ、ただ。
どうして、そこまで局長に対して神経質になるのか。唯一、何の疑いもなく気兼ねもなく信頼出来る人間であるだろう局長に対して、どうして。
俺にはぼんやりとしかその理由が掴めなかった。いや、掴もうとしなかった。――副長の内側を侵す事を自分自身で拒んだ。
その痛みが、副長の、土方さんの内に沈む恋情故ならば、その相手は局長だと、だからこそだと、頭ではなく脊髄反射で解ったから。
いつも通り、いつも通りのこの光景は、土方さんの痛みを少しでも和らげてくれているのだろうか。
そうであれば、俺は
敢えてこの感情に名前をつけないでそうしてそのままにしておく事を、お前は暗にいつも非難する。
それでも、俺は
あの人の片腕である事だけを糧に
慰みに