Aux innocents les mais pleines.
「ムヒョってばー」
ちょっと待ってくれたっていいじゃないか〜!! たどたど、その両脇に買い込んだ大荷物を抱え、その日ロージーは歩いていたんだな。
ムヒョは全く、荷物を持とうなんて素振りすら見せないし、まぁそれも毎度の事で、加えてロージーは大層なお人好しだったから、「ムヒョ〜」なんて言いながらも、決して「荷物持ってよ」とは言わなかった。
こんなデコボココンビがど一緒に働いているのという事に関しては色々な経緯があるわけだけど、この二人は何だかんだで良いコンビだったんで、魔法律協会も強ち間違ってはいなかったってわけだ。
色々と間違い犯してるけどね、あの協会も。
そうそう、それで話を戻そう。
そもそもムヒョとロージーがこんなに雑貨やら食料やらを大量購入しているのは、つい先日請け負った仕事、この仕事の依頼人が大層キップの良い人間でね、有り余る謝礼金をくれたから。
規定の料金を遥かに超えたその金額に、ロージーなんかはおろろおろろしちゃって、毎度お馴染みの様に「ムヒョ〜」、眉尻下げて困ってた。
ムヒョはムヒョで、「貰えるモンは貰っとけ」方針だから、何の衒いもなくその謝礼金を受け取った。
ムヒョ曰く「この金は別に汚い金じゃねーからな、」びらびら成金の様に札束を振ってみせてた。
「最近、ガスレンジだとか何だとか調子おかしいじゃねーか」
この金で買うぞ。きひひっと笑ってみせたムヒョに対して、がめついんだから、心の中で言えばいいものをロージー、口に出して言っちゃったもんだから、ここでまた一騒動。
罵詈雑言浴びせかけられたロージーは「うわああぁぁぁあん!!!」、泣きながら家出だよ。よく厭きないもんだ。
亭主関白って、アレは慣れたモン勝ちだと思わない? 慣れて軽くいなしてる感じ。掌の上の猿、みたいなね。
まぁ、ムヒョをいなす人間がいたら、それこそ驚天動地だけど。
そんな紆余曲折を経て、今現在に至ってる。
「寒いねー」
鼻の頭を赤くしながらロージーは隣のムヒョに話しかけた。
実際は追い着いたばかりで、その前に走ってたから、体はホカホカ。
それでもそう言ったのは、ムヒョが何となく寒そうに見えたから。
雪がちらつく夕方。日入り前。ちらちら紫紺の空から降ってくる白い結晶が、コートやらマフラーやらにくっついて。
「あんだけ走っといて寒いのかよ」
そりゃきっとどっか体壊れてんな。頭は言わずもがな壊れてるがな。
ムヒョの毒舌は絶好調、ぐっと詰まったロージー、それでもへこたれない。
違うよ、ムヒョが寒いだろうなって思ったんだよ。言いたい事を言い切って見せた。随分成長したもんだ。
「バカか、俺は別に寒くねーよ」
あっさりとした答えに、「そっかぁ」、ロージーは禁句を言い放った。
「ムヒョ子供だもんね〜」
子供は体温高いって言うし。
そっかそっか一人頷くロージーの眼の前に、いきなり銀世界が広がった。
「わぶっ!?」
「くくく、お似合いだ……」
足を引っ掛けられて顔面から転倒したロージー、暫し状況把握が出来なかったらしく、雪の上にうつ伏せのまんま。上から見ると間抜け度が高かった。
散乱した荷物を拾う事もなく、キヒヒっと笑ったまま先を歩いていくムヒョに向かって、漸く体を起こしたロージーは「ムヒョ!!」、珍しく大声を出したけど、ムヒョ知らん振り。
「全く、ムヒョは本当に子供なんだから……」
ぶつくさ、またまた禁句を言ったロージーの顔面を、今度は雪玉が襲った。
「ぶっ」
「その子供に頼りっぱなしなのはどこの大人だ、ああ?」
両手に雪玉を持ったムヒョ、掌の上でぽんぽん雪玉を放って遊ぶ。戦闘準備万全の様子。
「やったなー……」
「ちっ」
びゅ、っと飛んできた雪玉をかわす。かわした瞬間に持っていた雪玉を連続でロージーに向かって投げるも、ロージー、今度は上手く除けた。
「ムヒョなんかムヒョなんかムヒョなんかー!!!」
腕をぶんぶん回してむやみやたらに雪玉を投げてくるロージーに対し、冷静に投げ返すムヒョ。どっちが子供だか解らない。普通は逆だろうに。
その後、荷物を放り出しての、路上での雪合戦。人通りが少ない場所だからってはたはた迷惑な二人だよ、全く。
まぁ、結局は二人ともまだまだ子供だって話だね。